あなたのキスを数えましょ☆

本当に一生の不覚だった、と思う。

それは帝国国務省提供政府公報番組「宰相に聞く」生放送の日。


明るく、公明正大で、常に王道を行く
帝国の若き国務尚書ミッターマイヤーは、
その地位に似合わぬ若々しくハンサムな顔(童顔、とも言う)と、
魅力的な笑顔(年に似合わずかわいい笑顔、とも言う)で、
帝国の臣民(おもに若い女性とおばさんと、
一部の危ない趣味の男性)に人気があった。

その人気を利用しようとする国務省サイドは、
マスコミに対してミッターマイヤーを全面に出すことにしていた。

かくしてミッターマイヤーの笑顔がマスコミに出る機会は多く、
ミッターマイヤーがワイドショーを初めとするテレビに出ない日はなく、
それこそ地球時代のどっかの国の総理大臣のように
ポスター売り出したり、
オリジナル湯飲み作ったり、
写真集出したり、
CD発売したり、
息子とキャッチボールしたり、
メールマガジン発行したり、
「国務尚書まんじゅう」を売り出したり、
「ふぉ〜 えう゛ぁ〜 らぁ〜ぶ」と歌って見せたり ヾ(・・;)ォィォィ
しかねないくらいの勢いがあった。

その中で「宰相に聞く」は人気番組の一つ。
ミッターマイヤーと首席補佐官バイエルラインのコンビに
人気ナンバーワンのキャスターがインタビューをするだけの番組、
と言えばそれまでだが、
前述のミッターマイヤーの魅力と
若く忠実で、しかしいつまでも青二才のバイエルラインが
まじめくさって応える様子が
なんともいえず「か、かわゆい!(はぁと)」らしく、
帝国の若い女性と、おばさんと、
一部の趣味の男性を中心に視聴者を着実にのばしていった。

もちろん、ミッターマイヤー個人は
自分たちの政策を少しでも理解してもらおうと努力し、
いつも言葉を選んで発言していたが、
視聴者の関心が政策よりも
質問に応じてくるくると変わるふたりの表情と
ときおり見せる満面の笑顔にあるのだからどうしようもなかった。


そして、何を言い出すかわからない魅力、ということで、
その放映はいつも生放送で行われる。
本人達はいつも「いやだ!」と抵抗するのだが、
国務省の官僚達の
「閣下、アレク陛下のおんためです」
の一言で何も言えなくなるミッターマイヤーであった。


さて。その放映の日。


「閣下、動かないでください」
「う、うん・・・しかし」
ミッターマイヤーはくすぐったくてたまらない。
顔に何かを塗りたくられている。
慣れない。やっぱり、どうも気になる。
「なあ、どうしてもこのメイクというものはしなければならないのか?」
「お顔が若く見えられます」
「これ以上幼く見えなくてもいい」
と思ったのは、ミッターマイヤー本人ではなく
国務尚書の子守り・・・もとい、護衛役のビューローである。
その間にもおさまりの悪い蜂蜜色の髪にはドライヤーが当てられ、
適度に遊びの部分を残しつつ髪がまとめられていく。
その横ではバイエルラインがメイクさんにされるがままになっていた。

「今日は国務省の庭でカジュアルな感じで行きたいと思っております・・・」
と、担当ディレクターが少し気取った話し方で話し出す。
しかし、ミッターマイヤーとバイエルラインは、
話など聞かずにひそひそと話している。

「なあ、バイエルライン」
「何でしょう、閣下?」
「今日のディレクターは誰かに似ていると思わんか?」
「はい、小官もそう思っておりました」
「誰かな?」
「・・・今はなきかの軍務尚書閣下に・・・」
「『あの』オーベルシュタインか・・・」
少々気分が悪くなる。しかし、仕方ない。
似ているのは本人のせいではないのだから。

「なにかおっしゃいましたか・・・?」
ディレクターはどこから出したのか、壷を磨きながら説明を続ける。
「い、いや。段取りが、その、今日は早いな」
「光栄の極み・・・・・・」
ミッターマイヤーはぞくりと背中に走るものを感じた・・・
ポーカーフェイスで過ごせたのは、日頃の鍛錬のたまものであろう・・・。

やがてテーブルにバラが用意され、リハーサルが佳境にはいる。
飾られたバラはもちろん、今、帝国で一番人気の花。
「フラウ・エヴァ」と名付けられた小降りのバラの新種で、
可憐な黄色い花を咲かせる。
今、帝国中の若い女性と一部の若い男性の間で
「告白を聞くときに一番ほしい花」
として人気があるバラだ。
ここまでするか??とミッターマイヤーは思うが、
顔は満面の笑みを浮かべたままだ。


そして番組が始まる。
いつものように、無難に、無難に。
やがてミッターマイヤーの顔が画面に大写しになった瞬間
・・・ビューローは頭を抱えてしまった。


「・・・・・・閣下、つかぬ事をお伺いしますが」
番組が終わった後、ビューローがうめくように言う。
「なんだ?」
「夕べはお休みになれましたか?」
「え?・・・いや、夕べはちょっとな 」
妙なことを聞くな、と目線でとがめる。
しかし、今日のビューローは負けていなかった。
「閣下、さきほどモニターで見ておりましたが、首すじに・・・」
「首すじに?なんだ?・・・」手鏡をかり、のぞいてみる。
「!!」

そこにはまごうことなき赤い跡が・・・・・・。

「こ、こ、こ、こ、これは、そ、その・・・」
「子どもではないのですから、わかります」
「・・・・・・・・」


夕べは久しぶりに自宅でゆっくりできた。
エヴァが久しぶりに甘えてきた。
そうなると、若い?ふたりがすることは一つ。
まあ、不倫ではないだけいいと言えばそれまでだが。。。


「・・・テレビ出演の前の日は、少しお控えください」
ビューローは憮然と、しかし、笑いをこらえながらつぶやいた。
若き青二才バイエルラインは自分が指摘されたかのように、
すっかりゆでだこになっていた。


かくしてミッターマイヤー国務尚書の
くびすじについたくっきりとしたキスマークは
ミッターマイヤーの政策と共に全宇宙にむけて放映され、
それを見た帝国中の若い女性とおばさんと一部の趣味の男性は
(今度はわたしがつけてあげたい・・・)
と、あらぬ妄想をふくらませていくのであった。


教訓、
(テレビに)出るなら乗るな、
乗るなら出るなヘ(__ヘ)☆\(^^;)だれに乗るって??

(T∇T)ノ~(T-T)ノ~(T∇T)ノ~(T-T)ノ~ サヨーナラー ・・・・・・・・・・・


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