When she was good,she was very very...
ちいさいむすめがいたってさ  おでこのまんなか かわいいまきげ
いいこのときはとてもいいこ だけどわるいこのときはぞっとする
「マザーグース」より

(1)

フレイア・ミッターマイヤーは同級生の女の子に比べたら発展家の方になるのだろうと思う。同級生の男の子とではあるが、すでに青臭い?ファーストキスも済ませている。
いや、ビューローいわくの「大人のキス」まで済ませてしまった。
「大人のキス」・・・そう。
今まで経験したことのない、熱いキス。
あれ以来、どうもフレイアはいつもの調子が出ない。

フォルカー・アクセル・フォン・ビューローは、自他共に認めるミッターマイヤー国務尚書の右腕である。
私生活はいたって質素、かつまじめ。
優しい妻と子どもにも恵まれ、ある意味理想的な家庭を築いている。
愛人の影など、まったく見られない・・・はずだった。
しかし。
あのキスは何だったのだろう?
自分は、どうしてあんなことをしたのだろう?
あれ以来、ビューローの心の中に小さな疑問がわいている。

妻を裏切るつもりなどなかったのだが・・・。
・・・なかった、ではない。
ない、といわねばならないのだ・・・。
過去形で言うあたり、自分には「裏切っている」という自覚があるのだろうか?
たかが、キスをしただけだというのに・・・。
妻以外の女性へのキスなど、結婚後も初めてではないというのに。


そして、その日。

ミッターマイヤーは妻であるエヴァと末の娘のマリーテレーゼを連れて、翌日からハイネセンへの訪問に赴くことになっていた。
フェリックスとヨハネスは士官候補生であるので同行させない・・・軍人の卵を連れてはいけないのだ。

フレイアといえば。

「行きたくないって、ウォルフに言ったの」
と、彼女はビューローに言っていた。

あのキスの後、フレイアは、さすがにしばらくは執務室に遊びに来なかった。
しかし、一週間もたつと、何事もなかったかのように執務室に出入りしている。
若い子の考えることはよくわからない・・・。
いや、自分の考えすぎだな・・・きっとフレイアはもう何も気にしてはいないのだ。
そう思いたいビューローである。

この日も、フレイアはいつものようにいつものいすに座り、執務中の副官たちを見ている。
「・・・どうして?」
ビューローはコーヒーをすすめながら、フレイアに聞く。
「だって、面白そうじゃないもの・・・一応ウォルフには学校があるから、って言っておいたわ」
「そうだね・・・学業優先か」
「そうよ。私、ウォルフの秘書になるんですもの」
「でも・・・秘書になるんなら、逆にこういう機会に行っておいたほうがいいんじゃないか?外交は経験だよ」
「これも外交って言うの?」
「・・・・・・」
「ハイネセンの共和主義者たちが、ウォルフガング・ミッターマイヤーと対等に交渉とかできると思うの?」
「・・・・・・」
「今回は友好的に行くんでしょ?なんの建設的な話し合いもせずに、現状維持を確認するだけの」
「確かにそうだね」
「でしょ?なら同行するのは人当たりのいいマリテレーゼあたりが適任じゃない?」
「・・・」
「せいぜいあのかわいい笑顔で、ハイネセンのよい子たちをとりこにしてほしいわ」
「なるほどね」
ビューローは苦笑する。
「・・・でも、そうなるとミッターマイヤー邸には君しかいなくなるのか?」
「そうよ・・・と言っても、警備は万全ですけれどね」
「だろうね」
「・・・なんか、物の挟まったような言い方ね」
「・・・まあね」

ビューローが心配するのは、テロ。

ミッターマイヤーは現在、暗殺の目標bPの要人だ。もちろんその家族も・・・。
ミッターマイヤー本人がフェザーンにいないからといって、安心はできない。
いや、だからこそ、家族を狙ったテロが意表をついて行われる可能性だってあるのだ。
留守を預かるビューローは、用心に用心を重ねなければならない・・・。

フレイアには、自分がテロの標的になるかもしれない、という自覚はあるのか?
・・・いや、この子はあるに違いない。
だからこそ、こうやって執務室に顔を見せるのだ・・・。

そのフレイアといえば、
ビューローの心配そうな顔を見て、うれしそうににこりと笑う。
「心配なの?」
「そりゃあね・・・君がどう思おうと、結局は非力な子どもだ。本気で暗殺しようと思えば、たやすいと思う」
「・・・そのくらい、わかっているわよ」
「・・・それは結構。・・・では、警備を、閣下の外遊の間は2倍にさせてもらうよ」
「・・・了解」
ビューローはほっと胸をなでおろす。
「それから、閣下がおられない間は、ちゃんと家で過ごすこと」
「あら?・・・わたしをかごの鳥にするつもり?」
「夜遊びをしなければ、何も言わないよ」
「・・・ならあなたが、寝ずの番に来てくださる?」

ビューローは一瞬息が止まるのを感じた。

・・・これは、もしかして・・・誘いなのか?
いや。考えすぎだ。

「・・・喜んで、伺わせていただくよ」
「そう?・・・うれしいわ」
フレイアはとびっきりの笑顔を見せる。
不覚にも、ビューローは胸の奥が「どき」と音を立てたのを感じる。

10代のがきじゃあるまいし・・・何をときめいている?
しかしこの少女の笑顔は、士官学校時代のミッターマイヤーに瓜二つだ・・・。

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いいこの時はいいこ、悪いこのときは・・・のフレイア、ちょっと危ない・・・・・・?