夫婦げんかは犬も食わぬ(^_-)-☆パチッ

ビューローが部屋に戻ったとき、最近には珍しくミッターマイヤーが部屋にいた。
机に向かって、いかにもおもしろくなさそうに本を開いている。
しかし、読書にいそしんでいる風ではない。
「ロイエンタールの部屋には行かないのか?」
・・・よけいなことだ、と思いつつ、聞いてみる。
すると、
「あいつなんか、嫌いだからいいんです」
と、すねたような声が返ってくる。

ははあ、けんかをしたな、とビューローは気がつく。
本当に、こいつはわかりやすい。すぐに顔に出る。
「で、なんでけんかしたんだ?」
・・・これも、よけいなことだな、と思いつつ聞く。
すると、案の定
「わかりません」
と、完全にすねた声が返ってきた。
触らぬ神に祟りなしだ。そう思い、ビューローはそっと部屋をでる。

・・・と言って、このまま無視できるビューローではない。


ロイエンタールの部屋の前で、二人の大男が途方に暮れている。
今日中に仕上げなければならない共同レポートがあるというのに、
部屋の主がノックをしても応えようとしないのだ。
二人がロイエンタールを知って、もうすぐ2年になるが、こんなことは初めてだ。

「どうしたんだ?ロイエンタールは。まさか、病気じゃないだろうな?」
と、オレンジの髪のやんちゃな男がうめく。
「さっきまでは元気だったが・・・」
と、若干落ち着いた風貌の若者が腕を組む。
「・・・そう言えば、さっきミッターマイヤーがすごい剣幕で部屋を出て行ったな」
「おや、それはそれは。・・・夫婦げんかか?」
「どうしてそうなるんだ?ビッテンフェルト」
「冗談だぞ・・・しかし、ロイエンタールはそんなことすねる男ではないだろう?」
「うむ、おれもそう思っていたんだが・・・」
二人は顔を見合わせ、ため息をつく。


「で?どうしたんだ、お父さん」
いかにもおもしろそうにベルゲングリューンが聞く。
ビューローは、今日も保護者の気分になってしまっている自分に気がついている。
「・・・で、ではない。このままにしていていいものかどうか・・・」
「本当に卿は心配性だな、そのうちはげてくるぞ、きっと」
「・・・冗談はやめろ」
「まあ、いい傾向じゃないか。けんかできるような仲になったんなら」
「はあ?」
「夫婦でも、友人でも、お互いの心に壁があると、けんかもできないんだぞ。
あの二人が、心からぶつかり合えるようになった証拠だ。
・・・しかし、あのロイエンタールにそんな日が来るとはな」
「うん、まあな」
そうも言えるな、とビューローも思う。
あの、人間嫌いの(と二人は思っているのだが)ロイエンタールが、
けんかをするほど一人の人間に関われるなどと、思ってもいなかった。
・・・そこで、ビューローはふと考える。
自分もそうだ。
あのロイエンタールの変貌を、こうも喜べる自分がなんだかおかしく思える。
こうまでロイエンタールのことを考えている自分がいることが、なんだかおかしく思える。
あいつの影響かな?と、ふと思う。


「とにかく、どうもあの二人がくっついていないとなにかおもしろくない。」
・・・どうやら、ベルゲングリューンもそれなりに心配しているらしい。
こいつももしかして、おれと同じか?
「そうだな・・・どうする?」
「おれたちが何かして、それで二人が仲直りすると思うか?」
「思わん・・・逆になにもしない方が早く仲直りするような気もする」
「じゃあ、このまま見ておくか?」
「そうするか・・・なにもしなくても他の連中が何かするかもしれないが」
そのとき二人の脳裏に浮かんだのは、もちろんロイエンタールの同級生のあの二人だ。


そして、その二人組は、今度はミッターマイヤーの部屋に行く。
そして、ノックしようとして、そのまま固まっている。
「おい、お前が声をかけろ、ビッテンフェルト」
「お前の方が人当たりがいいだろ?お前が声かけろ、ワーレン」
「常に人より先んじる、それがお前のモットーだろう?」
「おれだっていつもそうとは限らんぞ。戦略を検討して時には慎重になることだってある」
「お前が慎重になるとはな。天変地異の始まりか?」
「・・・ほら、中で声がするぞ、きっと泣いてるぞ。かわいそうに・・声くらいかけてやれ、ワーレン」
「お前の方が気があうだろうが。お前が慰めてやれ、ビッテンフェルト」
「お前の方が・・・」
「いや、お前が・・・」
二人でドアの前でうろうろしていると・・・。

「・・・なに、してるの?」
ドアが開いて、ミッターマイヤーが顔をのぞかせる。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ・・・ははははははは」
・・・思わず笑ってごまかすビッテンフェルトである。
「お前、けんかしたのか?」
と、ワーレンが聞く。それには答えず、逆にミッターマイヤーが聞く。
「オスカー、部屋?」
「ああ」ワーレンが答える。
「じゃあ、行ってくる」
そう言うが早いが、ミッターマイヤーは疾風のごとく駆け出す。

「オスカー!」ドアをとんとんとたたきながら、ミッターマイヤーが声をかける。
「開けてくれない?ねえ・・・」
・・・ドアが開く。
「そんな声を出したら、おれの方が恥ずかしい。入れ」
ミッターマイヤーは少しうつむき、ロイエンタールの部屋へ入っていく。

いつのまにかギャラリーが増えている。
ビッテンフェルトと、ワーレンと、ビューローと、ベルゲングリューン。

「ロイエンタールが朝帰りしたらしい」
とベルゲングリューン。いつの間にか、いろいろな情報を仕入れている。
「それでミッターマイヤーが怒ったのか?」
「いや、違うらしいぞ」
「じゃあなんだ?」
「朝帰りしたロイエンタールが、たまたま友人とじゃれ合っているミッターマイヤーを見たんだそうだ。
で、急に不機嫌になった」
「・・・なんだ、それは?」ビッテンフェルトとワーレンの目が丸くなる。
「自分がいない間に、そんなことをして・・・とか言って、ミッターマイヤーと口も聞かないらしい」
ビッテンフェルトが呆れた、とつぶやく。
「自分の行動は棚に上げて、か?」
「・・・がきだな」
と、ワーレンも呆れている。
「大丈夫だろう。ま、キス一つだな」
と、冷静に言うベルゲングリューン。それを聞いてビューローがあわてる。
「おい!そんなに簡単に言うことではないぞ」
「いいだろう?一回も二回も一緒だ。それで仲直りできるなら」
「いや、許さん」
「・・・本当に父親になってしまったな、ビューロー」

十数分後、ミッターマイヤーはにこにこと笑って部屋を出てきた。
「仲直りしたか?」
ビューローのその問いに、ミッターマイヤーは笑って頷いた。
「で、どうやって仲直りしたんだ?」
ベルゲングリューンの少々意地悪な問いに、ミッターマイヤーはただ赤くなってうつむくだけだった・・・。

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さて、二人はどうやって仲直りできたのでしょう?

・・・改題「ガキのけんかは犬も呆れる」ヘ(__ヘ)☆\(^^;)