士官学校に入って早二年。 主席の座を確保し、先生の評判もいい感じに保っている ここまでは、よかったんだ・・・。そう・・・ここまでは・・・。
ナイトハルト・ミュラーの休日は他の人とは違う。 朝起きるとすぐに図書室など静かな場所に行き勉強に励む。 そして、お昼になると部屋に戻り軽い睡眠をとり、もう一度勉強をする。 そして、夜・・・
優等生ナイトハルト・ミュラーは机に向かい勉強をしている・・・。しているはずである・・・。 して、そのナイトハルト・ミュラーはどうしているかというと・・・。 「う〜ん。今日も疲れたなぁ・・・。優等生をやるのもしんどいよなぁ・・・」 ・・・・・・・。 「こうしないと父さんが怒るからなぁ・・・。僕は料理人か、音楽家になりたかったのに・・・」 ・・・・・・・。 「いつまで僕は優等生をやっていればいいんだ・・・」 「ほう・・・優等生ナイトハルト・ミュラー君は優等生の仮面をかぶった普通の男の子だったのか・・・」 「そう・・・僕は普通の・・・!!!!」 あまりにも穏やかな声だったので、そのまま答えてしまいそうになったミュラーはベッドから飛び起きた。 「やあ、優等生ナイトハルト・ミュラー君」 飛び起きたミュラーの目の前には赤毛のトパーズ色の目をした自分と同い年ぐらいの男が立っていた。 同い年ぐらいなのに男というのは、その少年が大人の気配というのを漂わせていたからである。 「き、き、君は・・・たしか・・・次席の・・・ギュンター・キスリング君・・・だったっけ?」 驚きのあまり、声の震えが止まらないミュラーであったが、頭は既にこの人物の名を記憶の引き出しの中から見つけ出していた。 「ご名答」 穏やかな顔をしたギュンター・キスリングという少年は顔と同じく穏やかな声でそう短く答えた。 「君のいつもと違う顔が見れてとても嬉しいよ」 「え・・・あ、いや・・・その・・・。それより君は何処から入ってきたの?」 「何処って、ドアに決まっているじゃないか。鍵も閉めていないなんて無用心だねぇ」 とんでもないことをサラリと言ってのけるキスリングを見ていたミュラーは次の言葉を忘れてしまった。 「開いていたんでね。入ってもいいのかなぁなんて」 [いいはずないだろ!」 優等生の仮面をかぶっていたことを知られ、ショックのあまり怒鳴ってしまった。 すると、廊下を歩いていた、生徒達がミュラーの部屋の前でピタリと止まり、中を覗き始めた。 「あああ・・・・もう、どうしてくれるんだ!!」 「どうしましょう。まあ、とりあえず私は出て行ったほうがよさそうですね?優等生のミュラー君」 ニッコリと微笑んで部屋を出て行こうとキスリングは背後の殺気に気付き右に飛んだ。 振り返ったキスリングが自分の元いた場所を見ると、足の折れた椅子が寝転がっていた。 「あはははは・・・・・・ミュラー君はジョークがお嫌いなようで・・・」 「どこがジョークだぁ!!」 そう叫んだミュラーは二個目の椅子をミュラーに向かって投げていた。 椅子にミュラーの殺気がのり移ったかのように恐ろしい音を立ててキスリングに飛んでいった。否飛んでいったはずだった。 しかし、先程までキスリングがいた場所には誰もいなかった。 キスリングは弾丸の如き速さでミュラーの後ろに回りこみミュラーを後ろから抱くようにして止まっていた。 「離せよ!もう、なんなんだよお前は!」 「おや?離せといっているわりには顔が嫌がっていないぞ?」 「!!!!!」 耳元で囁かれたその言葉はミュラーを黙らせるに十分であった。 「お・・・お前は・・・何なんだよ・・・」 「鎖につながれた可愛そうな人を救うためにやってきた、正義の味方です」 羞恥心というものがないのかあっさりと言ってのけるキスリング。 しかし、その言葉を聞いたミュラーはキスリングの分も恥ずかしがるように顔を真っ赤にしていた。 「・・・・知っていたのか?俺が・・・猫かぶってた事・・・」 「もちろん。好きな人のことは知っておかないと嫌なタイプなんでね」 「・・・・・・・」 「君がお父さんに無理やり士官学校にいれさせられ、主席をとらないと家に帰ってくるなと言われたとか色々ね」 「そうか・・・」 ミュラーはそう呟いて、抵抗をやめた。 「その姿を見てられなかったんだよ」 「・・がとう」 「え?」 反問したキスリングはミュラーがなんと言っていたか知っていただろう。 こいつはそういう男である・・・。 「ありがとう・・・」 「どういたしまして」 ミュラーの体を自分の方に向けたキスリングはミュラーの顔に自分の顔を幾分か近づけて 「じゃあ、君を少し楽にしたってことで一つだけ願いを聞いてくれるかな?」 「ん・・・・うん・・・・」 小さく頷いたミュラーを見たキスリングは一度ミュラーから離れると開いているドアに近づきゆっくりと閉めた。 その行動で大体の見当がついたミュラーはキスリングの方を向き口をパクパクさせていた。 「では・・・私の願いを聞いてもらいましょうか?」 「え・・・あ・・・その・・・昼食をおごるとかじゃダメかな・・・」 「ダメ」 「じゃあ、晩御飯も――――――――」 ミュラーの言葉の続きはキスリングの口の中で不分明な音となって発せられた。 「う・・・ううう・・・」 必死にもがくミュラーを両腕でしっかり押さえつけたキスリングはそれから一分ほどたっぷりと好きな少年の味を味わった。 「プハッ・・・ハァ・・・ハァ・・ハァ・・・」 呼吸を許してもらえなかったミュラーは見事に反論を封じられていた。 「では、また会いましょう。僕の大好きなナイトハルト・ミュラー君」 そういったキスリングはドアを開け、風の如き速さで駆けて行った。 「・・・・・・ファーストキスが・・・男?」 そう呟いたミュラーであったが、不思議と嫌悪感は無かった・・・ 「ギュンター・キスリング・・・か・・・」
恋の始まりは突然である。
あとがき
結構良いような気がするんですが・・・。 これなら皆さんに喜んでいただけるかも!って喜んで書いていました。 たくさんの人にもらっていただけると嬉しいです。
|