Birthday presents from Muller

キスリングが病院に見舞いに行ったとき、ミュラーはいつになく考え込んでいた。
「・・・お前、珍しく真剣に何を考え込んでいるんだ?」
からかうようにキスリングがそう言うが、ミュラーは相手にしない。
「おい、ミュラー君?ナイトハルトちゃん?大将閣下?」
「うるさいぞ」
めんどくさそうにミュラーが返事をする。
「こっちは真剣に悩んでるんだ。邪魔するなよ」
「・・・ほう、真剣に、ね・・・」
キスリングの顔が真面目になる。
「ローエングラム公の例の宣戦布告か?」

ちまたでは『一億人・百万隻体制』とまでいわれる自由惑星同盟と“帝国正統政府”に対しての出征の噂は、きっとミュラーの元にまで届いているに違いない。
ヤン・ウェンリーへの復讐に燃えるミュラーが落ち着かないのも無理はないか・・・。

しかし。
この、実はノー天気な大将閣下の悩みは別のところにあるようだ。

「・・・ああ、そういうのもあったなぁ・・・」
とつぶやくと、またなにか考え出す。

(出征のことじゃないのか・・・)
キスリングはため息をつく。
まあ、こいつのことだ。
そんなことではないとは思っていたが・・・。
こと戦術や戦略のことになると、ミュラーの決断は早いことをキスリングは熟知している。
いつものこいつからは考えられないほどの果断さを見せるからな・・・。

では、別のことか・・・。

「相談にのってやろうか?」
キスリングがためらいがちに・・・実はおもしろがって・・・そう言うと、ミュラーの顔が輝く。
「よかった!お前、おれよりもこう言うことには通じてそうだからな」
「・・・なんだよ、一体・・・」
「あのな。誕生日のプレゼントを贈りたいんだ。何がいいと思う?」
「誕生日のプレゼント?」
・・・こいつには、プレゼントを贈らねばならないような大切な人がいるのか?
そう考えると、ちょっとキスリングはおもしろくない。
(おれに黙って、彼女でも作ったのか?)
「さあ・・・送る相手によるな。相手はどんな人だ?」
探りを入れるようにキスリングが言うと、ミュラーはにっこりと笑って答える。
「ミッターマイヤー上級大将閣下だ」
「は?」
「もうすぐお誕生日だそうだ。お見舞いにも来て頂いたし・・・」
「・・・・・・あ、そう」
そうだった。こいつはそとづらだけは限りなくよかったんだ・・・・・・。

しかし、ミッターマイヤー上級大将はおいくつになられるんだ?
確か、29・・・いや、自分たちよりも2つ上だから今年30になられるはずだ。
がきじゃあるまいし、今更誕生日プレゼントなんかで喜んで下さるのか?
相手は家庭持ちだぞ!愛する奥方がいらっしゃるんだぞ!
おれたちのような野郎のプレゼントよりも奥方のキス一つの方がずっと喜ばれるだろうに。
こいつ、それはわかってるのか?
あーあ・・・・・・。
まるで彼女へのプレゼントを考える時みたいな、浮かれた顔をしやがって・・・。

そんなキスリングの思いも知らず、ミュラーは考え込む。

「なあ、お前だったらなにがいい?」
ミュラーにいきなりそう言われて、キスリングは正直とまどった。
「おれだったら?」
「そう、お前だったら・・・」
「う〜ん・・・・・・」
少し考えて、ミュラーに向かってにこりと笑って(この笑顔はくせ者なのだ)言う。
「おれだったら、愛する人のキスがいいな」
「はあ?」
「それが一番嬉しい誕生日のプレゼントだろう?」
「・・・・・・」
ミュラーは面食らっている。
「じゃあ、おれはなにも差し上げられないじゃないか・・・・・・」
「そこはそこ、しっかり考えろよ」
「はあ・・・・・・」
ミュラーはまた考え込む。
あまり真面目に考え込んでいるその姿を見て、キスリングはちょっとだけからかってみたくなった。
「おい、おれにいい考えがある」
そして、耳元で何かをささやく。
ミュラーの顔がぱっと明るくなる。
「それはいい・・・・・・」


「ただいま、エヴァ」
「お帰りなさい、ウォルフ。・・・ミュラー提督から何か届いてますわ」
「ミュラーから?」
「これですの。何かカードのようですけれど・・・」
ミッターマイヤーはエヴァから手渡された封筒を見る。
確かにミュラーの字だ。

ミッターマイヤーが封筒を開けると、そこには手書きのカードが10枚ほど。
それと、ミュラー直筆のカードが同封してある。

『敬愛するミッターマイヤー閣下、お誕生日おめでとうございます。
同封のカードは、奥様とお使い下さい』

カードを見て、ミッターマイヤーは苦笑する。
「あいつ、妙なことを考える・・・まるでがきみたいだな」

カードにはミュラーらしい、細い、丁寧な字でこう書いてあった。

『奥方にキスをもらえます券』

ミッターマイヤーはエヴァにカードを見せて、微笑む。
「本当に子どもみたいなことを考える・・・」
「あら、いいじゃありませんか?」
「そうだな・・・」
ミッターマイヤーはカードを一枚、エヴァにわたしてささやく。
「さっそく使おうかな?・・・エヴァ、愛してるよ」

そして、二人は愛を込めて口づけをかわす・・・。

Happy Birhtday Herr Mittermeire・・・・・・


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