おやじの宇宙(うみ)?


長い戦いが終わった。
これでエヴァの元へと帰れる。
帝国軍元帥ウォルフガング・ミッターマイヤー元帥は指揮シートに身体を預け、
眼前に広がる漆黒の宇宙に思いをはせていた。

エヴァとは一年近く会っていない。
会ったらなにを話そう?話したいことはたくさんある。
いや、その前に抱きしめて・・・キスをして・・・。

平和になったら子どももほしい。
自分に似た男の子と、エヴァに似た気だてのいい女の子。
そして、小さくても、優しい空気に満ちた家を作ろう。
・・・そんなことを考えながら、ついついうとうととしてしまったミッターマイヤーである。

春、花の香りに満ちた、ある日のこと。
ミッターマイヤーの前には一人の女性がいた。
自分そっくりの、蜂蜜色の髪と灰色の瞳の若い女性だ。
その女性が、微笑みながら自分に近づいてくる。
「お父様・・・」
お父様、だって?するとこの子はおれの娘か?
なんとまあ、おれによく似ている・・・。
ん?おれにはこんな大きな娘がいたっけな?
おまけに・・・なんだ?
ウエディングドレスじゃないか?
・・・すると、今日はおれの娘の結婚式か?
さっき、長い長い自由惑星同盟との戦いが終わったと思ったのに。
いつの間にこんなに月日が流れたんだ?

それより、おれの娘は誰と結婚するんだ?

そんなミッターマイヤーの気も知らず、「娘」らしき女性はにこにこと笑って話しかける。
「お父様が結婚を反対されたときはどうしようと思いました」
ん?おれは結婚に反対したのか?・・・まあ、世の父親なら自分の娘を嫁には出したくないだろうしな。
つまり、おれも人並みの父親だったというわけだ。
「でも、わたし、きっと幸せになります。見ていてください、お父様」
そう言って、彼の「娘」は目を伏せる。
不覚にも、その姿を見て、ミッターマイヤーは涙が出そうになる。
「・・・お前が選んだ男だ、もうなにも言わない。だがな、幸せにならないと承知しないぞ」
おや、おれは、結構まともなことを言っているじゃないか?
しかし、相手は誰か、気になる。

そこへ、トントン、と部屋をノックする音が聞こえる。
「時間だよ」
ん?聞き覚えのある声だ。
これが、おれの娘の結婚相手の声か?
「ええ、入ってちょうだい、フォルカー」
なにぃ!フォルカーだって!?・・・ということは・・・。
・・・静かにドアが開く。
そして、真っ白い正装に身を包んだミッターマイヤーがよく知っている男が入ってくる。

彼の忠実な副官、経験と豊かな知識に満ちた、ミッターマイヤーのよき相談相手。

(ビューロー!!)

ミッターマイヤーは開いた口がふさがらない。なぜだ?なぜこの男が?
確かこの男には、妻と子どもがいたはずだ!

「お父様が反対したときはどうしようかと思ったの」
(おい!おれよりビューローは年上だぞ!!)←ミッターマイヤーの心の声。 
「でもフォルカーは、奥様と別れてまでわたしを愛していると言ってくださったし・・・」
(すると、おれの娘は不倫の上に、ビューローを妻から奪い取るのかぁ??)←同じく。
「お父様も許してくださって、感謝しています」
(許してない!許してない!!)←しつこいけれど心の声。
「わたしたち、幸せになります」
(だめだ!絶対にダメだぁ!!)

そこへ、追い打ちとも言える一言をビューローが言う。
「今日から元帥閣下のことを『お義父さん』とよばねばならないのでしょうね・・・」
おれは呼ばれたくない!絶対に呼ばれたくない!!
大体、お前の方が年上だろうが!!絶対に、いやだ!!
しかし。幸せそうなふたりは、幸せそうな顔のままミッターマイヤーに話しかける。
もちろん声をかけられた方は幸せそうではない。

「お父様・・・・」
「お義父さん」

言うな、言うなぁ!!

「閣下!閣下!どうされましたか?」
激しく揺り動かされて、ミッターマイヤーは目を覚ます。
目の前には、ビューローの顔があった。
思わずミッターマイヤーの平手がうなる。
「結婚だけはゆるさ〜〜ん!!」

ばっち〜〜〜ん!!

なにがなんだかわからないまま、ビューローは平手打ちを食らっていた。

「か、閣下・・・?」
「あ・・・」

ミッターマイヤーは辺りを見回す。
ここは、ベイオウルフの艦内。
どうやら自分は司令官のシートで居眠りをしていたらしい。
すると、あれは夢だったのか。
しかし、この手に残る感触は・・・?

おそるおそるミッターマイヤーが見ると、目の前に頬を真っ赤に張らしたビューローの姿があった。
「すまん!!ビューロー!!」
ミッターマイヤーはビューローが「いいですよ」と言っても、ただただ頭を下げ続けた・・・。

やがて、オーディンに帰還したミッターマイヤーからビューローの自宅に
410年ものの白ワインと最高級スコッチが届けられたが、それは別の話。


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発作的にギャグが書きたくなる管理人ということで・・・(ーー;)許してね。