たんぽぽ 門倉 訣作詞 堀越 浄作曲 |
![]() |
30近くになって、いまさら誕生日パーティというのも少々恥ずかしい。 何よりも、祝われる(はずの)当の本人が、誕生日どころか、自分がこの世に生まれたことすら嫌っている節がある。 それに、無骨な男性に祝われるよりも、あいつなら星の数ほどの女性が誕生日を祝ってくれるはずだ。 それでも、ウォルフガング・ミッターマイヤーは彼の親友の誕生日を心から祝ってやりたい、と毎年考えている。 「小さいときに心を作り損ねた」 そう思っているふしのある親友に、自分の小さいときのよき思い出を味あわせたい。 ミッターマイヤーはいつもそう思い、二人の休みがあうたびにロイエンタールをいろいろなところへと連れ出した。 渓流釣り、海遊び、プール、スキー、スケート、そして遊園地。 そのたびにあきれつつも、ロイエンタールはつき合ってくれた。 ・・・さすがに「フィールドアスレチックでの木登り」には少々閉口したが。 「背の高いやつにはわからないだろうけれど、人の頭を見下ろせるって言うのは快感なんだぞ!」 いつもの笑顔でそう言われては、ロイエンタールもなにも言えなくなる。 ・・・それでも、ロイエンタールには、親友の心遣いが嬉しかった。 そんなロイエンタールに、ミッターマイヤーが味あわせたいのは、心のこもった誕生日。 高いプレゼントも、派手なバースディ・パーティもいらない。 彼の小さいときに、家族で祝ってくれた誕生日。 母親の手作りの、甘い香りのバースディ・ケーキ。 心のこもった、温かい料理。 そして、お祝いの言葉。 それだけあれば、なにもいらなかった。 ・・・自分が平凡だが幸せな子ども時代を送ったこと、そのことが、逆にロイエンタールに対しての負い目になっていること。 それをミッターマイヤーは自覚している。 だからこそ、ロイエンタールの誕生日をそういう形で祝ってやりたい。 毎年そう思うミッターマイヤーなのだ。 そして、今年。 「簡単なケーキですか?」 「うん、エヴァ、何か教えてくれないか?」 夫の真剣な顔を見て、エヴァは苦笑に近い笑みをもらす。 この人がこんなに悩む顔は、滅多に見れるものではないだろう・・・・・・。 「ケーキはどれも同じような作り方ですわ」 「うん、知っている・・・でも、それじゃ作れないよ」 ミッターマイヤーは・・・こちらは完全に「苦笑」とも言うべき表情になる。 一昨年はエヴァが教えてくれたとおりにスポンジケーキを焼こうとして、どうしても食に耐えるものが作れずに断念した。 去年は「これならいいかも」と言われて焼いたアップルパイが、どう見てもマンホールのふたのようにしか見えない代物へと化していた。 今年こそは、自分の子ども時代のように、手作りの心のこもったケーキを・・・。 「あなた、ホットケーキではいかが?」 「それじゃあ誕生日らしくないだろう?」 「そう・・・?」 「何か、簡単で、それでいてケーキで・・・」 エヴァは少し考え込んで、やがて、にっこりと笑う。 「あなた、いいものがありますわ」 それから15分後。 疾風のごとくスーパーへと向かったミッターマイヤーは、マ○ービスケットと、生クリームと、ジャージー牛乳を手に帰ってきた。 会心の笑みを浮かべて。 そして、10月26日。 朝、ローエングラム元帥府に出仕したロイエンタールを待っていたのは、ほっぺに白いクリームを付けたまま微笑んでいるミッターマイヤーだった。 「おはよう!ロイエンタール!」 「・・・あ、ああ。おはよう、ミッターマイヤー」 こいつはいつも元気なやつだが、今日はいつも以上に元気な顔をしている。 なにかあったのかな? そう考えたロイエンタールは、やがて今日が自分の誕生日であったことに気がつく。 (当の本人さえ忘れかけている日を、どうしてこいつはこうもにぎやかに祝うことができるのだ・・・?) そんなロイエンタールの思いなど知ってか知らずか、ミッターマイヤーはいつも以上のお日様笑顔で言う。 「ああ、卿の執務室に届け物をしておいた。後で・・・いや、すぐに開けてくれ」 「あ、ああ」 唖然としているロイエンタールを尻目に、ミッターマイヤーはもう一度にこりと笑うと、疾風のごとき早さで自分の執務室へと戻っていった。 自分の執務室に戻ったロイエンタールを待っていたのは・・・。 困惑気味のレッケンドルフとベルゲングリューンの顔。 そして、執務室の机の上にどん!と置かれた甘ったるい香りを発している物体だった。 それはどうひいき目に見ても、崩れかけた○リービスケットに生クリームをぶっかけたものにしか見えなくて・・・。 「・・・これはなんだ?」 思わずそう聞いたロイエンタールに、ベルゲングリューンが答えた。 「ミッターマイヤー閣下からです・・・カードもついていますが」 「・・・そうか」 執務室にいる幕僚達の視線を浴びながら、ロイエンタールはカードを開く。 『ロイエンタール、誕生日おめでとう。 毎年プレゼントを何にしようかと悩むのだが、今年はおれの時間をお前にやることにした。 海鷲で思いっきり飲もう、執務が終わったら待っている。 そうそう。今年はエヴァに教えてもらった特製のケーキつきだ。エヴァが5つの時にはじめて作ったお菓子らしい。簡単だと言われたのだが、どうもおれの手はお菓子作りにはむいていないらしい。まあ、崩れていても味は保証つきだ。ゆっくり味わってくれ。 それと。 昨日庭を見ていたら、すみっこにこんなものを見つけた。 最近暖かかったからな。春だと思って咲き出したらしい。 ほら、卿はいつもおれの髪を綿毛みたいだって言ってくれるだろう? 執務室にでも飾ってくれ。 大体卿の執務室は少し素っ気ないぞ!花ぐらい飾ったらどうだ?女性からいつももらうだろうに・・・。 では、今夜海鷲で。 ウォルフガング・ミッターマイヤー』 カードに添えられていたのは、季節はずれのタンポポの花。 春の風が、一瞬、執務室の中にふいたように思えた。 おまけ(笑) エヴァが教えてくれた「5歳児でも作れるケーキ」の作り方 材料 マ○ービスケット 数枚 牛乳 適量 生クリーム 適量 かざりになるもの 作り方 (1) ビスケットを 牛乳に浸す (2) 生クリームをホイップし、牛乳に浸したビスケットの間に挟む (3) ビスケットのまわりに生クリームを塗り、飾りをつけ、冷蔵庫で冷やす。 (4) できあがり 切るときに気をつけないと崩れることがあります。(笑) |
ロイエンタール提督お誕生日記念SS。 この前庭に季節はずれのタンポポがたくさん咲いていました。 で、ついこう言うものを・・・。 この小説は「無料配布」いたします(笑) 自分のサイトをおもちの方、ぜひご自分のサイトにお持ち帰りしませんか? 同人誌を発行されている方、同人誌にお持ち帰り下さっても結構です! (ただし、著作権は放棄しておりません。掲載ページのどこかに 出典と著作権者(みつえ)を明記してください。 よければこのサイトへのリンクもおねがいします。 こんな風に→ みつえ様のサイト「おいしい黒蜜はいかが」より 「無料」ですが、「無断」お持ち帰り厳禁です。 お持ち帰りのさいは一言BBSかメールでおねがいしますm(__)m |