DANDELION

たんぽぽ

門倉 訣作詞 堀越 浄作曲


雪の下のふるさとの夜 冷たい風と土の中で  
青い空を夢に見ながら 野原に咲いた花だから
どんな花より たんぽぽの花をあなたに送りましょう  
どんな花より たんぽぽの花をあなたに送りましょう

高い工場の壁の下で どれだけ春を待つのでしょう  
数えた指をやさしくひらき 空き地に咲いた花だから
どんな花より たんぽぽの花をあなたに送りましょう  
どんな花より たんぽぽの花をあなたに送りましょう

ガラスの部屋のバラの花より 嵐の空を見つめつづける  
あなたの胸の想いのように 心に咲いた花だから
どんな花より たんぽぽの花をあなたに送りましょう  
どんな花より たんぽぽの花をあなたに送りましょう




30近くになって、いまさら誕生日パーティというのも少々恥ずかしい。
何よりも、祝われる(はずの)当の本人が、誕生日どころか、自分がこの世に生まれたことすら嫌っている節がある。
それに、無骨な男性に祝われるよりも、あいつなら星の数ほどの女性が誕生日を祝ってくれるはずだ。
それでも、ウォルフガング・ミッターマイヤーは彼の親友の誕生日を心から祝ってやりたい、と毎年考えている。

「小さいときに心を作り損ねた」
そう思っているふしのある親友に、自分の小さいときのよき思い出を味あわせたい。
ミッターマイヤーはいつもそう思い、二人の休みがあうたびにロイエンタールをいろいろなところへと連れ出した。
渓流釣り、海遊び、プール、スキー、スケート、そして遊園地。
そのたびにあきれつつも、ロイエンタールはつき合ってくれた。
・・・さすがに「フィールドアスレチックでの木登り」には少々閉口したが。
「背の高いやつにはわからないだろうけれど、人の頭を見下ろせるって言うのは快感なんだぞ!」
いつもの笑顔でそう言われては、ロイエンタールもなにも言えなくなる。


・・・それでも、ロイエンタールには、親友の心遣いが嬉しかった。


そんなロイエンタールに、ミッターマイヤーが味あわせたいのは、心のこもった誕生日。
高いプレゼントも、派手なバースディ・パーティもいらない。
彼の小さいときに、家族で祝ってくれた誕生日。

母親の手作りの、甘い香りのバースディ・ケーキ。
心のこもった、温かい料理。
そして、お祝いの言葉。
それだけあれば、なにもいらなかった。

・・・自分が平凡だが幸せな子ども時代を送ったこと、そのことが、逆にロイエンタールに対しての負い目になっていること。
それをミッターマイヤーは自覚している。
だからこそ、ロイエンタールの誕生日をそういう形で祝ってやりたい。
毎年そう思うミッターマイヤーなのだ。



そして、今年。


「簡単なケーキですか?」
「うん、エヴァ、何か教えてくれないか?」
夫の真剣な顔を見て、エヴァは苦笑に近い笑みをもらす。
この人がこんなに悩む顔は、滅多に見れるものではないだろう・・・・・・。

「ケーキはどれも同じような作り方ですわ」
「うん、知っている・・・でも、それじゃ作れないよ」
ミッターマイヤーは・・・こちらは完全に「苦笑」とも言うべき表情になる。
一昨年はエヴァが教えてくれたとおりにスポンジケーキを焼こうとして、どうしても食に耐えるものが作れずに断念した。
去年は「これならいいかも」と言われて焼いたアップルパイが、どう見てもマンホールのふたのようにしか見えない代物へと化していた。
今年こそは、自分の子ども時代のように、手作りの心のこもったケーキを・・・。


「あなた、ホットケーキではいかが?」
「それじゃあ誕生日らしくないだろう?」
「そう・・・?」
「何か、簡単で、それでいてケーキで・・・」
エヴァは少し考え込んで、やがて、にっこりと笑う。
「あなた、いいものがありますわ」

それから15分後。
疾風のごとくスーパーへと向かったミッターマイヤーは、マ○ービスケットと、生クリームと、ジャージー牛乳を手に帰ってきた。
会心の笑みを浮かべて。


そして、10月26日。


朝、ローエングラム元帥府に出仕したロイエンタールを待っていたのは、ほっぺに白いクリームを付けたまま微笑んでいるミッターマイヤーだった。
「おはよう!ロイエンタール!」
「・・・あ、ああ。おはよう、ミッターマイヤー」
こいつはいつも元気なやつだが、今日はいつも以上に元気な顔をしている。
なにかあったのかな?
そう考えたロイエンタールは、やがて今日が自分の誕生日であったことに気がつく。
(当の本人さえ忘れかけている日を、どうしてこいつはこうもにぎやかに祝うことができるのだ・・・?)
そんなロイエンタールの思いなど知ってか知らずか、ミッターマイヤーはいつも以上のお日様笑顔で言う。
「ああ、卿の執務室に届け物をしておいた。後で・・・いや、すぐに開けてくれ」
「あ、ああ」
唖然としているロイエンタールを尻目に、ミッターマイヤーはもう一度にこりと笑うと、疾風のごとき早さで自分の執務室へと戻っていった。

自分の執務室に戻ったロイエンタールを待っていたのは・・・。
困惑気味のレッケンドルフとベルゲングリューンの顔。
そして、執務室の机の上にどん!と置かれた甘ったるい香りを発している物体だった。
それはどうひいき目に見ても、崩れかけた○リービスケットに生クリームをぶっかけたものにしか見えなくて・・・。

「・・・これはなんだ?」
思わずそう聞いたロイエンタールに、ベルゲングリューンが答えた。
「ミッターマイヤー閣下からです・・・カードもついていますが」
「・・・そうか」
執務室にいる幕僚達の視線を浴びながら、ロイエンタールはカードを開く。


『ロイエンタール、誕生日おめでとう。
毎年プレゼントを何にしようかと悩むのだが、今年はおれの時間をお前にやることにした。
海鷲で思いっきり飲もう、執務が終わったら待っている。
そうそう。今年はエヴァに教えてもらった特製のケーキつきだ。エヴァが5つの時にはじめて作ったお菓子らしい。簡単だと言われたのだが、どうもおれの手はお菓子作りにはむいていないらしい。まあ、崩れていても味は保証つきだ。ゆっくり味わってくれ。
それと。
昨日庭を見ていたら、すみっこにこんなものを見つけた。
最近暖かかったからな。春だと思って咲き出したらしい。
ほら、卿はいつもおれの髪を綿毛みたいだって言ってくれるだろう?
執務室にでも飾ってくれ。
大体卿の執務室は少し素っ気ないぞ!花ぐらい飾ったらどうだ?女性からいつももらうだろうに・・・。
では、今夜海鷲で。
ウォルフガング・ミッターマイヤー』


カードに添えられていたのは、季節はずれのタンポポの花。


春の風が、一瞬、執務室の中にふいたように思えた。




おまけ(笑)
エヴァが教えてくれた「5歳児でも作れるケーキ」の作り方

材料 マ○ービスケット 数枚
牛乳 適量
生クリーム 適量
かざりになるもの

作り方
(1) ビスケットを 牛乳に浸す
(2) 生クリームをホイップし、牛乳に浸したビスケットの間に挟む
(3) ビスケットのまわりに生クリームを塗り、飾りをつけ、冷蔵庫で冷やす。
(4) できあがり
切るときに気をつけないと崩れることがあります。(笑)


novelsへ

ロイエンタール提督お誕生日記念SS。
この前庭に季節はずれのタンポポがたくさん咲いていました。
で、ついこう言うものを・・・。

この小説は「無料配布」いたします(笑)
自分のサイトをおもちの方、ぜひご自分のサイトにお持ち帰りしませんか?
同人誌を発行されている方、同人誌にお持ち帰り下さっても結構です!

(ただし、著作権は放棄しておりません。掲載ページのどこかに
出典と著作権者(みつえ)を明記してください。
よければこのサイトへのリンクもおねがいします。

こんな風に→ みつえ様のサイト「おいしい黒蜜はいかが」より


「無料」ですが、「無断」お持ち帰り厳禁です。
お持ち帰りのさいは一言BBSかメールでおねがいしますm(__)m