家を出るとき、父親は 「お前は軍人に向いている。がんばりなさい」 と励ましてくれた。 母親は 「おまえは優しい子だから、つらかったらいつでも帰っておいで」 と涙ぐんで送ってくれた。 彼は、と言えば、新しく始まる生活に期待と不安を持っていた。 士官学校の伝統で、先輩たちと同じ部屋になるらしい。 それも彼には励みになった。 よし!認められるようにがんばるぞ!! 与えられた部屋へと向かう。 さあ、!新しい生活が、あのドアの向こうにあるんだ! トントン・・・軽くノックする。 「どうぞ」 ・・・これが、一緒の部屋になる先輩の声か(どきどき) ドアが開く。彼は一生懸命に覚えてきた挨拶をしようとする。 ところが、彼は先制攻撃を許してしまった・・・・・・。 「はい、あ、君が新入生?」 その先輩とおぼしき人物の顔を見たとき、・・・彼は、なにも言えなくなってしまった。 そこに立っていた先輩は、彼には天使に見えたのだ。 ふわふわとした、蜂蜜色の髪。 くるくると動く、快活なグレーの瞳。 彼よりも小さな身体。 ハンサムと言うよりも、かわいい、少年のようだ、という表現があっているような顔。 そして、優しげな、人好きのする微笑み。 ・・・この人は、本当に自分よりも年上なのか? どう見ても、自分と同じか、少し下に見えるじゃないか?? 確か、同室の先輩は、士官学校始まって以来の秀才だと聞いていたんだけれど・・・。 こんなにかわいい人でいいのかぁ? ・・・ああ、それにしても、なんて魅力的な人なんだぁ!! (お、おれはなんてラッキーなんだぁ!!) 彼は心の中で叫んでいた。そして、この幸運を大神オーディンに感謝した。 しかし。 「おい。オスカー、この子が同室の一年生だって」 え?え?え?・・・この人じゃないのか?・・・ そうか、いくら何でも、こんな人が学年一番のはずはないもんなぁ。 じゃ、おれの同室の先輩って・・・だれ? 彼はおそるおそる室内を見渡し・・・ そして、雷にでも打たれたかのように動けなくなった。 そこには、金銀妖瞳にいいようのない光を浮かべた、端正な顔の先輩が一人。 はっきり言って彼をにらみつけている・・・まるで、射殺してしまいそうな鋭い目つきで。 「・・・ウォルフ、何でそんな奴に優しくする?」 ウォルフ?・・・そうか、このかわいい人はウォルフって言うんだ。 「だって、オスカー、この子新入生だよ。優しくしてあげなくっちゃ」 ・・・どうやら同室の先輩の名前はオスカーというらしい。 でも、どうしてこの人はおれをこんなににらみつけるんだ? おれ、なにかしたっけ? ・・・まだ、挨拶すらしてないじゃないか!! 「オスカー・フォン・ロイエンタールだ、よろしくな」 そう言ってロイエンタールは手をのばした。しかし、新入生は硬直したままだ。 「フン、他愛のない」 「だって、オスカーがそんなににらみつけるから、怖がっているんだよ」 さっきのかわいい先輩が一生懸命に弁護してくれている。彼は、ますます硬直している。 ああ、おれのせいで、おれのせいで、あのかわいい人が怖い先輩にいじめられるぅ・・・。 「これくらいでそんなに萎縮していては叛乱軍とは戦えまい?」 「まだ初めてだよ、先輩は後輩の緊張をほぐしてあげなくっちゃ」 「おれがそう言うことをする相手はお前だけでいいだろ?」 「なんでそんなに冷たいんだよ?」 「・・・・・・」 金銀妖瞳がかわいい先輩に何か耳打ちする。 耳打ちされた方は、真っ赤になる。 「・・・またそんなことを・・・」 そして、うつむいてしまう。 「おい、そこの青二才」 「は、はい!!」 思わず反射的に返事をしてしまう。青二才って、おれのことかぁ? 「・・・おれたちは、これから少し取り込み中になる。 ちょっと他の部屋に行っておけ。いいか、絶対にくるなよ!!」 そう言うと、金銀妖瞳は彼を荷物ごと部屋の外に押し出した。 彼は、状況がわからず、ただただドアの外にたたずむだけであった。 ・・・ただただ呆然としている彼の肩を、誰かがぽん、とたたいた。 「・・・・・」 「お前、ロイエンタールの同室か?」 ・・・優しい声だ。 「はい」 思わず涙ぐみそうになる。 「大変だな。まあ、がんばれ」 「はい・・・いつもこんなですか?」 「ああ・・・ま、ミッターマイヤーが部屋に来ているときはおれの部屋に来ておけよ」 ミッターマイヤーというのか・・・。あのかわいい人。 「あ、お前、名前は?おれはアウグスト・ザムエル・ワーレン。隣の部屋だ」 「・・・・・・」 「おい、青二才!!」 ドアの中から声がする。 「はい!!」 ああ、また反射的に返事をしてしまった・・・。 「言っておくが、こいつはおれのものだからな、手を出すなよ!!」 え?え?え?え〜っ!? 手を、手を出すって?? 「ロイエンタール!!」 ドアの中から、叫び声と、人を殴る音が一つ、二つ。 勢いよくドアが開いて、かわいい方がぷぅと頬をふくらませて出てきた。 その顔がまたかわいくて・・・。 ドアが開き、あごを押さえたまま金銀妖瞳がでてきた。端正な顔に青あざを作って。 そして彼をにらみつける。 (お前のせいだぞ)と言いたげな顔だ。 「おい、青二才。これから仲よくな・・・」 そう言いながら、金銀妖瞳は手を彼の方にのばす。 カール・エドアルド・バイエルライン。 彼の波瀾万丈な軍隊生活は、このとき始まった・・・・・・。 |
これは「栴檀は・・・」と対になってる作品です。 どっちからアップしようか悩んだけれど。あっちが先にできましたので、先にUPね。 しかし、人払いしてロイさん、ミッタとなにしてたの?? ・・・・・・それでも、じつはわたしはバイエルライン・ファン |