(5)

「ほら、これが父さんと母さんの生まれた星だ」
ミッターマイヤーは、腕に抱いたヨハネスとフレイアの双子にささやく。
二人はそれがわかるのか、腕の中でにこにこと笑う。

今日は二人の1歳の誕生日。
ミッターマイヤーは子ども達・・・フェリックスとヨハネスとフレイア・・・を、初めてオーディンに連れてきた。
彼の両親に子ども達をあわせるために。

もっと早く来たかったのだが、新任の国務尚書とて、激務が続いた。
最近、やっとペースがつかめてきたところだ。
・・・両親からは「早く顔が見たい」という便りがちょくちょく届いていたのだが、なかなか機会に恵まれなかった。
できれば、年老いた両親にも一緒にフェザーンに来てほしいのだが、父親は頑固にそれを拒否している。


つい先日もFTLを入れたのだが、父親はフェザーンに来ることを拒否した。
「おれはここを離れん。もうこの年になると、新しい土地で暮らすのはちょっとな・・・」
「でも親父、もしも親父に何かあったら、と思うと心配なんだ。一緒に暮らさないか?」
「若いもんの邪魔はしたくない」
「もうおれたちも若くない。子どももできたし、孫と一緒に暮らすのも悪くないよ?」
「もういいじゃないか。お前だって小さい子どもじゃないんだし、おれたちだって自分の生活をしたい」
「・・・頑固なんだから」
ミッターマイヤーはため息をつく。


「あなた達親子は、本当によく似ていらっしゃるわね」
エヴァがにっこりと笑いながら言う。
「似てるかな?どこが?」
「妙に頑固なところですわ」
「そんなこと、言ったことないくせに」
ミッターマイヤーはにこにこと笑って答える・・・腕の中には双子がいる。
二人してミッターマイヤーのおさまりの悪い髪をくるくると指でかき回す。
「オーディンに久しぶりに帰ろうか?」
「あら、行こうか、ではありませんの?」
「あそこにはおれの家があるんだからな。“帰る”だろう?」
「・・・あなたは、もうフェザーンの人間になられたのか、と思っておりましたわ」
「どうして?」
「だって、もうオーディンには住まれないのでしょう?」
「・・・エヴァ、子ども達が大きくなって、おれがすべての責務から解放されたら・・・一緒にオーディンに、帰ろう」
「・・・いつのことかしら?」
エヴァが寂しそうにつぶやく。
「なあに、すぐさ。そうしたら、おれは、君と会ったあの家で、君と永遠に一緒に暮らすことにするよ。
君の入れたコーヒーを飲んで、君の作ったブイヨン・フォンデュをたらふく食べて」
「・・・楽しみに待っていますわ」
エヴァは微笑みながら、夫のためにコーヒーを入れ直す。
・・・もしかしたら、そんなときは永遠に来ないのかもしれない、と、ふと思いつつ。

オーディンの空気は、フェザーンのそれとは違い、適度に水分を含んで、心地よい。
・・・やはりここは自分の故郷なのだ。
自分はこの星で生まれ、育ったのだ。
ミッターマイヤーは実感する。
・・・こんなにも、ここは安らぐ場所なのだ。
もしも自分がヴァルハラに赴くときは、この地で・・・。


「親父がここを離れようとしない理由もわかる」
ミッターマイヤーは、傍らのエヴァに言う。
「おれでも、公務がなければここに帰りたいものな」
「フェザーンは生々しいから」
・・・エヴァが、聞こえるか、聞こえないかというくらいの声で言う。
「え?」
「あそこではあなたは国務尚書で、帝国軍の至宝でいらして・・・でもここでは、違うもの。
ここでは、あなたはただのウォルフガング・ミッターマイヤーですもの」
「はは・・・」
そんなおれが、まだ存在するのかな?とミッターマイヤーは自嘲する。
国務尚書としての自分、かつての、帝国元帥としての自分、そして、よき夫としての自分。
親父達の見るおれは、いったいどんなおれなんだろう?

・・・ミッターマイヤーは、エヴァの視線を感じる。
エヴァは、じっと彼を見ている。・・・まるで、考えていることを見透かすような瞳だ。


「・・・行こうか、親父達が、家で待っている」
ミッターマイヤーは双子を抱え直す。
エヴァは、フェリックスが眠っているベビーカーを静かに押す。

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久しぶりに書きました。なかなかこのシリーズには取りかかれなくて・・・。