Happy Bierthday Herr Mittermeire!

(1)士官学校編

まだ新学期には少し日がある。
士官学校の寄宿舎は、まだ人が少ない。

『誕生日まで家にいたらどうなんだ?』
そういう父親の声は聞こえなかったふりをして、ミッターマイヤーは寄宿舎へ帰ってきた。
どうせ家にいたって、けんかになるだけだ。
『今からでも遅くない、士官学校などやめて帰ってこい。お前に軍人はむかん』
士官学校首席を前にして、それはないだろう?とミッターマイヤーは思うのだが。

とにかく、寄宿舎に帰ってきてしまった。
この分では、今年の誕生日は一人で迎えることになりそうだ・・・・・・。

「お?もう帰ってきたのか?」
聞き慣れた大声がする。
ふり返ると、そこにはオレンジ色の屈託のない先輩の姿。

「ビッテンフェルト先輩こそ、早いですね」
「おう。おれはいつもこうだぜ」
「家ではゆっくりされないんですか?」
「ねーちゃん達がうるさくてな」
「ねーちゃん?」
「なんだ、知らなかったのか?おれにはうるさいねーちゃんが3人もいるんだ」
「3人も?」

・・・ビッテンフェルトの話によると、ビッテンフェルトには美しい(!)姉が3人もいるのだという。
しかも、みんななかなかの才女らしい。

「3人とも大学まで行っているんだ、すごいだろう?」
「それは・・・すごいですね」
ミッターマイヤーは素直にうなづく。

・・・帝国では女性の教育にはあまり力を入れない風潮があるのを、ミッターマイヤーも知っている。
彼自身、女の子はハウプトシューレを卒業したら家庭で花嫁修業をするのが当たり前とどこかで思っている。
それが一般的なのだ。
そんな中、3人とも大学に進学している、というのはちょっと考えられない。

・・・それはさておき。
末っ子の甘えん坊(!)ビッテンフェルトは、自分がいつまでも甘えん坊の末っ子として扱われるのがいささか気に入らないようだ。
「あんまりうるさいから、『用事がある』と言って帰ってきてしまった」
「そうですか」
「ま、いつものことだ」
そう言って、にこりと笑う。
「しかし、おまえはいいのか?」
「え?」
「明日、誕生日だろう?ご両親と一緒に過ごさなくてもいいのか?」
「・・・・・・どうして、人の誕生日、知ってるんです?」
「ロイエンタールが教えてくれた」
「・・・え?」

なんで、ロイエンタールは自分の誕生日を知っているのだろう?
教えたはずはないのに・・・。

「・・・あ、そういえば、ロイエンタールも部屋にいるぞ」
「・・・ふ、ふうん・・・」
「行ってやれよ、喜ぶぞ」
「どうして?」
「あいつ、お前が絶対早く帰ってくるって言ってたからな」
「・・・・・・」

どうして、わかるんだろう?


寄宿舎の部屋にいたロイエンタールは、悔しいぐらいいつもと変わらなかった。
「もう帰ってきたのか?」
「うん・・・あなたは?」
「おれは休みの間、ここにいた」
「ふうん・・・・・・ごめん」
「なにが?」
「聞いちゃいけなかった?」
「いや」
そういうとロイエンタールはポケットから小さな箱を出し、無造作にミッターマイヤーに投げてよこす。
ミッターマイヤーはそれを受け取り、首をかしげる。
「これ、なに?」
「お前にやる」
「おれに?」

小さな箱には、小さなリボンがついている。

「これ、もしかして?」おれの誕生日のプレゼント?
そう聞こうとすると、ロイエンタールの方から口を開く。
「おれは自分の誕生日など何とも思わないが、お前はそういうことは好きだろう?」
「・・・ありがとう」
ミッターマイヤーはもどかしげに箱の包みを開く。
・・・開くと言うよりは、包みを破く、と言った方が適当だったかもしれないが。

中にあったのは、小さな、青い石のついた指輪。
銀の細い鎖が一緒についている。

「ペリドットというらしい。お前の誕生石だ」
「・・・・・・ありがとう。でも・・・」
「安物だ、気にするな」
「でも・・・・・・」
「お前は指にはつけない、というだろうと思って、鎖をつけておいた」
「あ・・・・・」

先手を打たれている。
どうして、自分が言いたいことが、この人にはわかるのだろう?

「どうして・・・?」
誕生日がわかったの?そう聞こうとすると、ロイエンタールは笑って言った。
「おれはお前のことは何でも知っている」

その笑顔は何となくまぶしくて、いつまでもミッターマイヤーは忘れることができなかった。


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遅くなりました。2002年、蜂蜜閣下誕生日記念SSです。