今日はダービー・・・

「ねえ、あなた、今度の日曜日は競馬場に行きません?」
演習から帰ってきたミッターマイヤーを迎えた愛妻エヴァの最初の一言がそれだった。
「競馬場?ああ、今度の日曜日は帝国ダービーだね」
確か、トリスタンが出走するな・・・ミッターマイヤーは思い出す。
しかし、エヴァが競馬場に行くなんて、珍しいものだ。

「実は、すてきな名前の馬を見つけましたの」
「ああ、そうなのか・・・」
「それであんまりきれいな馬なので、馬主の方にメールを差し上げましたの。
そうしたらとても紳士的な方で、すっかりお友だちになってしまって。
・・・怒ってらっしゃるの?」
「いや、怒ってないよ。相手の方は男性?」
「ええ・・・でも、貴族の方ですけれど、紳士的な方ですわ。
で、今度の帝国ダービーにその馬を出されるので、もしかしたらお会いできるかもしれないと思って。
・・・ウォルフと一緒だったら安心ですし」
「・・・ちょっと待って、エヴァ、急にいろいろしゃべられても
・・・まず、どんな名前の馬なんだい?」
「この馬ですわ」
ミッターマイヤーはグラビアを見て、思わず笑う。
そこにいたのは立派な栗毛と蜂蜜色に近い色のたてがみを持つ馬。
名前は・・・
「『ウォルフデアシュトルム』だって?」
「そうですの。この方、あなたのファンですって」
「・・・照れるな」
ミッターマイヤーはそう言いながら、くだんの馬の成績を見る。
「G1のマイルで3着・・・今回も人気馬だろうな」
自分と同じ名前の馬が人気が出ると、嬉しいものだ。
今回も自分の馬は出走するだけで満足、無事に帰ってきてくれればいいと思っている。
なら、この馬の馬券でも買ってやるか・・・ん?
ミッターマイヤーはグラビアの写真に釘付けになる。

そこには、今回の注目馬の紹介がある。
エヴァの馬トリスタンも「2歳チャンピオンの雪辱」という見出しで馬主であるエヴァと共に写真に収まっている。
それはいいのだが。
くだんの、自分と同じ名前の馬、ウォルフデアシュトルムも馬主と一緒に写真に収まっている。
尾花栗毛(身体が栗色の毛で、たてがみが金髪の馬のこと)が美しい馬だ。
筋肉も引き締まっていて、いかにもスピードが出そうな体型をしている。
強い馬のオーラ、というか、何か主張しているような気さえ起こさせる馬だ。
もしかしたら、今回の勝者はこの馬かもしれない。
しかし、だ。
そのグラビアの中には、そこにいてはいけない人物の写真があるように思うのだが・・・。

もう一度、目をこらしてミッターマイヤーはグラビアを見る。
そのグラビアの題名は・・・

“Wolf der sturm und herr Paul.von.Oberstein”

(馬主は“あの”オーベルシュタインかぁ!?)
ミッターマイヤーは心の中でくりかえす。
(なぜだ、なぜだ。なぜ“あの”オーベルシュタインが馬主で、
しかもおれの名前を自分の馬につけねばならんのだ!?)
しかも、しかもだ。
エヴァの話ではメールですっかり気があって、今やメル友状態と言うではないか!
“あの”オーベルシュタインが確実に来るであろう馬主専用席に行き、
エヴァとオーベルシュタインが仲よく話すのをみて、
『妻がお世話になっている』とまで言わねばならないのかぁ?

・・・あまり楽しい想像ではないではないか!
いやだ、いやだ。絶対にいやだぁ!


心の中で叫び続けているミッターマイヤーに追い打ちをかけるように、エヴァが言う。
「あ、パウルさんはあなたのご同僚なんですってね。
『日曜日、ご主人ともお会いできることを楽しみにしております』ってメールを出してくださいましたわ」
楽しみに、楽しみにしている、だと〜!!
おれは楽しみになんかしていない!!


確かに、オーベルシュタインを憎んでいるわけではない。
ただ嫌っているだけだ(おい!)。
仕事で一緒に行動するのならまだ我慢できるが、なぜプライベートまで一緒に行動せねばならんのだ!!

一瞬、今回は行くのをやめよう、とミッターマイヤーは思った。
しかし。
そうなるとエヴァとオーベルシュタインがふたりきりで会うというのか??
そっちの方がもっといやだと思い直したミッターマイヤーであった・・・・・・。


「なあ、なあ、卿とおれは親友だろう?なら、今度の日曜日、競馬場へつきあってくれ!!」
ミッターマイヤーがロイエンタールにすがるように言う。
事情を知ったロイエンタールはミッターマイヤーの肩をポンとたたいて言う。
「卿も大変だな。おれもついてこよう」
「あ、あ、あ、ありがとう!!」
ミッターマイヤーはロイエンタールにきゅっ、と抱きつく。
(ふっ、役得だな)
密かにそう思うロイエンタールであった・・・。


結局、ロイエンタールだけでなく、ミュラーとビッテンフェルトにも声をかけたミッターマイヤーである
・・・しかし、これがいけなかった。
ミュラーの口から広がってしまったこの話を聞きつけ、
「疾風ウォルフとオーベルシュタインの陰険漫才がみれる」
と、いつもの物好きな(失礼!)提督方も同行することになってしまったのだ。

ミッターマイヤーの苦悩?は続く・・・。

ダービーは明日。


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Teikoku Dream Keibaへ

今回はチャットの中で出てきたお話を元にしています。

ダービー馬のオーナーになるのは、一国の宰相になるよりも難しい(by チャーチル)のだそうです。
さあ、ミッターマイヤーとオーベルシュタイン、果たしてダービー馬のオーナーになれるのでしょうか?