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「おい、明日は競馬場に行こう!」 ミッターマイヤーがそう言ったとき、 その場にいた、ロイエンタールを除く全員が口をあんぐりと開けた。 ミッターマイヤーが、競馬だと?? およそ、想像できない取り合わせだ。 いや、わからん、ポーカーではしょっちゅうお金をかけている男だから。 (そして、これが結構強いのだ) しかし、競馬だと?? 提督たちの脳裏に、ある光景が浮かんだ。 競馬オヤジの「定番」ハンチング帽をかぶり、 表情が見えないように、色の濃いサングラスをかけたミッターマイヤー。 右手には赤鉛筆、左手には競馬専門誌「UMAUMA」、そして勝ち馬投票券。 およそ似合わぬ光景だ・・・。 「実はな、エヴァの馬が2000ギニー(日本の皐月賞ですな、by作者)に出るのだ」 「なに?」 「卿の女房は馬主なのか?」 口々に言う提督たちに説明したのは、 ミッターマイヤーではなくて、ロイエンタールだった。 「おれが奥方に勧めたのだ。 こいつは地上よりも宇宙にいることが多いから、奥方も寂しいだろうと思ってな」 「すると、ことのほかエヴァが気に入ってしまった。 まるで子どもができたみたいだと喜んでな。 今では10頭ほど持ち馬がいる。みんなエヴァ名義だ。 戦闘がないときには毎週にんじんをやるために牧場までふたりで出かけている。 本当に子どもみたいでかわいいぞ」 にこにこと説明するミッターマイヤー。 そんなんよりほんとうの子供を早く作らないか、 そう言う提督方の視線を、しかし、ミッターマイヤーは気がつく風でもなく続けた。 「今まで結構勝ち星はあったが、今年の仔はなかなか素質がある。 めでたく、明日の2000ギニーの出走権を取ることができた。 で、おれが応援に行くんだ。エヴァは見るのが怖いから家で観戦するそうだ。 おれ一人ではどうもおもしろくなくてな・・・どうだ、つきあわないか?」 そして、ささやくように付け加える。 「冷暖房完備飲み放題の馬主専用席だぞ」 「行く行く!」 真っ先にビッテンフェルトが叫ぶ。 「入場料は?」 ファーレンハイトがそう問うと、ミッターマイヤーが微笑んで答える。 「つきあってくれるなら、おれが全部出す」 「・・・行くほかあるまい」 水色の瞳の青年提督は不敵な笑みを浮かべる。 もちろん、ほかの提督方に異論のあろうはずがない。 「決まったな、では、明日競馬場に10時。 あ、馬主専用席だから正装でな。軍服は不可だ」 かくして、提督方は普段は着ないような背広に身を包み、 馬主専用の貴賓席にいる。 お金持ちの親父たち、いや、VIPたちに囲まれ、 戦場では勇猛さを誇る提督方もなにか居心地が悪い。 手にはウィスキー、しゃれた会話。 なぜこんな所に自分たちがいるのだ? まだスタンドでジャンクフードと赤鉛筆を手に馬券検討の方が似合っている。 そう思うワーレンは、実は、競馬場の常連であった。 そして、こういう場が一番似合わなそうな男、ウォルフガング・ミッターマイヤーは にこにこといつもの笑顔でVIPたちと会話をしている。 「提督の馬が今日はG1出走ですな」 「どうですか、いつものレースよりも緊張なさるでしょう?」 「いやいや、無事に回ってきてくれればそれで満足ですよ」 会話をしている様子は、どう見ても大人と子どもに見えるのだが、 それは置いておいて。 こういう場所が一番似合いそうな男、ロイエンタールはと言えば その場にいるほぼ全員の予想通り VIP関係者とおぼしきたくさんの女性の熱っぽい視線をあび、 いつものシニカルな笑顔を見せていた・・・。 そして、競馬専門誌を見ていた 全くの初心者ビッテンフェルトが、驚いたような声を出す。 「おい、ミッターマイヤー、なんだこれは!!」 「どうした、ビッテンフェルト」 「なぜこの馬とこの馬とこの馬の父親は同じなのだ?兄弟なのか?」 「ああ、よくあることだ」 「よくあることだ、だと?」 「馬によっては一年に150頭近くの種付けをするからな」 「一年に150頭?それではロイエンタール並みじゃないか!」 その声に引き合いに出された当の本人ロイエンタールが ちらりとビッテンフェルトを見る。 「ちょっと違うぞ、馬は相手を選べないが、おれは一応選んでいるつもりだ。 それに、種を植え付けるようなへまはしない」 「そう言う問題ではなかろう!」 ここぞとばかりにビッテンフェルトがほえようとする、 それを止めたのは例によってミュラーであった。 「まあまあ、両提督方、間もなく出走ですので・・・」 「そうだぞ、卿らはおれの、いや、エヴァの馬の応援に来たのであろう?」 ミッターマイヤーにそう言われて、素直に引き下がるロイエンタール。 やはり彼はミッターマイヤーには弱いらしい。 提督方は、日頃のふたりの友誼(本当に友誼だけか??)をかいま見る思いだった。 レースが進んで、いよいよ11レース。 本日のメインレース、G1,2000ギニーだ。 ここまでそこそこ小銭を使い、 すでにそこそこの利益を得ているファーレンハイトの目が光る。 (これも当ててやる!) ミッターマイヤーの持ち馬を応援することなど、すでに頭の中からは消えていた。 「提督の馬が勝たれたら、何か賞金が出るのですか?」 ミュラーの素朴な疑問。 「50万帝国マルク(約一億円)の賞金が馬に渡される。 それを、牧場と、調教師と、騎手と、馬主で分ける形になる」 「卿の分の賞金はどうなるのだ?」とファーレンハイト。 さすが、金の話題になると耳が早い。 「エヴァのものだ。あたりまえだろう?」 「奥方はその賞金をどうされているのだ?」 いつも質素なエヴァを知っているルッツが、不思議そうに言う。 「さあな、そういえば、慈善事業に寄付しているとか言っていた」 「もったいない!」 と、ファーレンハイトがつぶやく。 慈善事業よりもおれに寄付しろ、有効に使ってやるぞ。 そう言いたげな表情だ。 「ところで、応援しようにも馬の名前が分からぬが、何というのだ?」 ちょっと真剣に応援、いや、馬券を買おうと思っているのだろう、 ルッツが瞳に藤色の光をただよわせている。 「ああ、4枠8番の馬だ。今3番人気かな、買い時だぞ」 言われてルッツが出走表をみる。 4枠8番、トリスタン。 馬主の所に、たしかにエヴァンゼリンの名がある。 「トリスタン・・・?」 みながあっけにとられる。 なぜゆえにロイエンタールの旗艦の名が付いているのだ? 「あの馬は赤ん坊の時から牝馬の尻ばかり追いかけていた。 それを見ていたら、どうしてもトリスタンとつけたくなってな」 そう言って、にこにこ笑うミッターマイヤーであった・・・。 |
一口馬主に応募するご夫婦が結構いるとか。
自分の子ども代わりにかわいがるのだそうです。
まあ、高給取りのミッちゃん夫婦は一口といわず、一頭丸ごと所有すると思って・
・・しかし、駄文だ(^◇^;)