(2)

レース開始20分前。
ミッターマイヤーの馬、トリスタンは4番人気、9.2倍になっていた。
「・・・・・・大丈夫かな?前走よりも12sも減っているぞ」
ミッターマイヤーが心配そうにつぶやく。
「前走が元気がなかったからなぁ。心配だ。
無事に完走してくれるといいけれど」
「体重が減っているとどうなるのだ?」
何も分からないビッテンフェルトが、いちいち聞いてくる。
そして、それにミッターマイヤーが律儀に答えている。
「前に走ったときが太りすぎていたときはいい状況なんだ。
でも、悪い材料に受け取れることもある」
「で、トリスタンはどうなのだ?」
「・・・・・・あまりいいとは思えぬ」
ほかの馬がやけによく見えるだけに、ミッターマイヤーは心配で心配でたまらない。

しかし。テレビで解説者の
「前回が稽古の絶対量が足りなかった故に、今回は絞ってきましたね。いいですよ!」
の声に、思わず笑みが出る。
「そうだ、そうだよな、ロイエンタール」
なぜかロイエンタールに問うと、
ロイエンタールが、ミッターマイヤーだけに分かる笑顔で答える。


そんなふたりを尻目に、ファーレンハイトは悩んでいた。
このレースは勝負に出たい。
だが、手堅く行くという手もある。
どうしようか。
本命11番とミッターマイヤーの馬を買うと、ほぼ16倍。
100帝国マルクが1600帝国マルクになる。
しかし。1番人気と2番人気を組み合わせても7倍。
100帝国マルクが700帝国マルクだ。
おお。結構つくではないか。

テレビの解説では、結構トリスタンの評価が高い。
専門誌の予想でも結構シルシが着いている。
手堅く行くか、ミッターマイヤーへの義理を通すか。
ヤン・ウェンリーとの戦闘でも、ここまで悩まなかったであろう。

(ええい、勝負だ!)
100帝国マルク札を持って、馬券売り場へとむかう。
馬主専用の馬券売り場は、けして混み合ってはいない。
窓口の女性もどことなく上品な感じがする。
ふつうの売り場のおばちゃんたちもこのくらい愛想が良かったらなぁ・・・
と、ファーレンハイトは思う。(思うって、あんたも競馬するのか??)

「8−11と11−12を50帝国マルクずつ」
そう言うと、ほうとため息をつく。・・・彼にしては、大きな金額をかけてしまった。
まだ胸がどきどきしている。我ながら度胸がついたものだ。

ふと見ると、いつの間に買ったのか、ミッターマイヤーも馬券を握りしめている。
「卿、いつの間に買ったのだ?」
「昨日な、前日売りで買った。今日は込むからな」
もちろんトリスタンの単勝、100帝国マルク。
それと8−14と書いてある馬券100帝国マルク。
「14番の馬はエヴァが昔一口持っていた馬の初めての子どもなんだ」
と言って、こう付け加える。
「これは2枚とも当たっても換金しない。記念に取っておくのだ」
も。もったいない!
ファーレンハイトはそう思うが、まあ、それは個人の自由だ。
それに結局はミッターマイヤーの金であり、自分の金ではない。

ルッツは1・2・3番人気の馬の馬連とワイドのbox買い。
ワーレンは1番人気の馬からのワイド総流し。
・・・ふたりとも、なかなか慣れた買い方だ。
「ここの窓口は込まなくていいな。また誘ってくれ」
と笑顔をミッターマイヤーに向けるふたりであった。

ロイエンタールは、
「走るのを見るだけでも美しいと思わぬか」
というだけで、けして馬券には手を出さない。

ビッテンフェルトは馬主席まで持ってきたもらったサンドイッチに舌鼓を打っていた。
もともと興味がないのだから、単純にレースを楽しもうと思ったらしい。
ついに馬券は買わずじまいだ。

ミュラーはけして買い目を教えないが、
「独自の情報で、2・3頭ほど狙いをつけてみました。中穴狙いで行きます」
と言ったまま、双眼鏡を手にじっとコースを見ている。

そして、ファンファーレ。
提督方の注目がターフに向く。

ガチャ!とゲートが開く。
18頭の馬が一斉に走り出す。

提督方も、特にミッターマイヤーは、意味不明ともとれる言葉を大声で叫ぶ。
「いけ!!」
「そのままそのまま!!」
「よーし、追え、追え!」
「疾風ウォルフの由来を見せてやれ!」(・・・それはあんただろうが)
まるで子どものような大騒ぎだ。


人気薄の馬の驚くべき快走で、この日の2000ギニーは大荒れに荒れた。
結局トリスタンは直線思うように伸びず、着外に沈んだ。


「7着か。まあ、いいさ。帝国ダービーもあるし」
そうつぶやくミッターマイヤーの横で、ミュラーの表情が硬くなっていった。
「・・・あ、あ、あ、あ、あ、あ、当たった・・・」
「なにぃ?」
ビッテンフェルトが大声で叫ぶ。

単勝2番、112.9倍、馬連2−9 530.9倍。
二つとも100帝国マルクずつ買っていたミュラーであった。
つまり、200帝国マルクが64000帝国マルクになってしまったのだ。

すでに卒倒寸前のミュラーである。

1番人気の馬が3着に入ったので、
ワーレンもミュラーほどではないが、20倍近い配当を得て満足である。
ふたりを囲んで、自分が取ったかのように盛り上がるビッテンフェルトとファーレンハイトである。
(ただ酒が飲める!)
という魂胆が見え見えである。


「なあ、再来週の帝国杯は卿の馬は出るのか?」
結局馬券をはずしてしまったルッツが、ミッターマイヤーに聞く。
「いや、どうだろうな、聞いてない」
「・・・結構楽しいな、こう言うのも」
ビッテンフェルトがつぶやく。
「また誘ってくれ」
「ああ、いいとも」
「それよりも、今日はミュラーのおごりだ。飲み明かそうぜ!」
ビッテンフェルトの言葉に、全員が笑う。
やっと我に返ったミュラーが、いつもの物静かな表情で言う。
「いいですよ、どうせ取るとは思わなかったお金です。海鷲で騒ぎましょう」


その夜、ミッターマイヤーの馬の健闘と、
万馬券を取ったときのミュラーのあわてぶりを酒のサカナに、
提督方が盛り上がったのは言うまでもない。

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来ませんでしたね、アドマイヤドン。
POGというゲームがあるのですが、お友だちと一緒にやっているこのゲームでこの馬のオーナーやってます。
応援していたのですが・・・まあ、ダービーに期待(^◇^;)