Lantemario

and Wolfgang Mittermeire



ミッターマイヤーは、彼の生涯の長きにわたって、第2次ランテマリオ会戦のことを、けして語ろうとしなかった。
少なくとも、積極的に語ろうとはしなかった。

「双璧の争覇戦の勝者」
そう言われるたびに、彼はそれを否定した。
「おれにはワーレンとビッテンフェルトがいた。ロイエンタールには誰もいなかった」と。

語って、伝わる思いと、けして伝わらないであろう思いと。
人の思いには2種類のものがある。

ロイエンタールのことは、後者であろう。
ミッターマイヤーはそう思えてならない。
彼の誇りのために、矜持のために、ミッターマイヤーが語りうることはない。
そういう思いが、ミッターマイヤーの中にある。



ロイエンタールが、個人的な野心だけで叛乱を起こしたのではないことは、最初からわかっている。しかし・・・いや、だからこそ、自分は全力を挙げて彼と戦わねばならない。
それがロイエンタールに対して自分ができるただ一つのこと。



「『あなたが死にかけているときに あなたについて考えないでいいですか?』・・・」
酔ったとき、あいつがふとつぶやいた言葉を思い出す。

「なんだ、それ?」
「女が教えてくれた。詩だそうだ」
「ほう」

あなたが死にかけているときに
あなたについて考えないでいいですか?
あなたから遠く遠く離れて
生きている恋人のことを考えても?

それがあなたを考えることにつながる
とそう信じてもいいですか
それほど強くなってもいいですか
あなたのおかげで

「・・・卿の今度の恋人は、元文学少女だったようだな」
そう言って、軽口をその時は叩いて見せた。
ロイエンタールは小さく笑っただけだった。

「詩の題名はなんという?」
しばらくして、思い出したようにそう聞いたミッターマイヤーに、ロイエンタールは笑って答えた。
「・・・『これがわたしの優しさです』というそうだ」



なら、これがおれの、お前への優しさだ。
スクリーンに映し出された、小さな光点を見つめながらミッターマイヤーは思う。

オマエニアウマデハ オマエニツイテハカンガエマイ
ソレガオレノヤサシサダ・・・・・・

永遠と虚無について考えていいですか
あなたが死にかけているときに

ハイネセンでミッターマイヤーは親友の亡骸と対峙する。
「・・・おかえり、ロイエンタール」
誰にも聞こえないように、そうつぶやく彼がいた。

そして、謀叛の全貌が明らかになったその時。
ミッターマイヤーの元へも、その最終報告書がもたらされた。

ミッターマイヤーは報告書を手にすると、2・3行読み、そのまま机の上に置いた。
「・・・読まれないのですか?」
バイエルラインの問いに、ミッターマイヤーは小さく笑って答えた。
「読まずともわかる」
「・・・はあ」
「・・・あいつのすることで、おれが理解できなかったことはひとつもない」


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