![]() ミッターマイヤーは、彼の生涯の長きにわたって、第2次ランテマリオ会戦のことを、けして語ろうとしなかった。 少なくとも、積極的に語ろうとはしなかった。 「双璧の争覇戦の勝者」 そう言われるたびに、彼はそれを否定した。 「おれにはワーレンとビッテンフェルトがいた。ロイエンタールには誰もいなかった」と。 語って、伝わる思いと、けして伝わらないであろう思いと。 人の思いには2種類のものがある。 ロイエンタールのことは、後者であろう。 ミッターマイヤーはそう思えてならない。 彼の誇りのために、矜持のために、ミッターマイヤーが語りうることはない。 そういう思いが、ミッターマイヤーの中にある。 ロイエンタールが、個人的な野心だけで叛乱を起こしたのではないことは、最初からわかっている。しかし・・・いや、だからこそ、自分は全力を挙げて彼と戦わねばならない。 それがロイエンタールに対して自分ができるただ一つのこと。 「『あなたが死にかけているときに あなたについて考えないでいいですか?』・・・」 酔ったとき、あいつがふとつぶやいた言葉を思い出す。 「なんだ、それ?」 「女が教えてくれた。詩だそうだ」 「ほう」 |
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「・・・卿の今度の恋人は、元文学少女だったようだな」 そう言って、軽口をその時は叩いて見せた。 ロイエンタールは小さく笑っただけだった。 「詩の題名はなんという?」 しばらくして、思い出したようにそう聞いたミッターマイヤーに、ロイエンタールは笑って答えた。 「・・・『これがわたしの優しさです』というそうだ」 なら、これがおれの、お前への優しさだ。 スクリーンに映し出された、小さな光点を見つめながらミッターマイヤーは思う。 オマエニアウマデハ オマエニツイテハカンガエマイ ソレガオレノヤサシサダ・・・・・・ |
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ハイネセンでミッターマイヤーは親友の亡骸と対峙する。 「・・・おかえり、ロイエンタール」 誰にも聞こえないように、そうつぶやく彼がいた。 |
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そして、謀叛の全貌が明らかになったその時。 ミッターマイヤーの元へも、その最終報告書がもたらされた。 ミッターマイヤーは報告書を手にすると、2・3行読み、そのまま机の上に置いた。 「・・・読まれないのですか?」 バイエルラインの問いに、ミッターマイヤーは小さく笑って答えた。 「読まずともわかる」 「・・・はあ」 「・・・あいつのすることで、おれが理解できなかったことはひとつもない」 |