(1) 一年に一度の、士官学校祭。 その目玉とも言えるイベントがある。 「ミス士官学校?」 「そうだ、学校祭のメインイベントだ」 「ふうん」 ミッターマイヤーはコーヒーのお代わりを自分でつぐと、友人の方に向き直る。 「だって、士官学校に女なんていないぞ」 「当たり前だ」 「じゃあ、ミスコンテストなんてできないじゃないか」 「そこはそれ、みんなで飾るのさ」 「・・・だれを?」 「そりゃあ、哀れな犠牲者だよ。去年はおれたちの一年上は、あのビッテンフェルト先輩だったって話だぜ」 「・・・それは・・・」 笑える。絶対に笑える。ビッテンフェルトの化粧した女装姿・・・。 想像しただけで、笑える。 「お笑いでいいんだな」 「ああ、でもマジでやってくる学年もあるらしいぞ」 「ふうん」 「・・・・・・そうそう。おれたちの学年はお前に出てもらうから」 同級生の何気ない一言に、ミッターマイヤーは飲みかけのコーヒーを吹き出す。 「どうしてさ!」 「だって、お前が一番小柄だし、かわいい。上級生の受けもいいしな。じゃ、頼んだぞ!」 「頼んだぞ、って、・・・おい!」 どうやら、ミッターマイヤーのいないところで話が進んでいるらしい。 いつの間にかクラスの代表が自分になっていることに、遅まきながらミッターマイヤーは気がつく。 「おれはいやだぞ!」 そう叫んでみても、 「まあ、お祭りじゃないか」 そう言って、誰も取り合ってくれない。 「よう、今年のミスコンの代表はお前だって?」 通りすがりにビッテンフェルトにまで言われ、ミッターマイヤーはさらに落ち込む。 「まだ出るとは言ってないんですよ。みんなが勝手に決めていて・・・」 「なんだ、おれと同じパターンだな」 「先輩もだったんですか?」 「ああ、ワーレンとロイエンタールにやられた」 「出なくてもいいんでしょ?」 「・・・優勝した学年は期末テストの学科で優遇される、と言う話がある。 現に、優勝者のいる学年からは毎年留年が出ない」 「・・・なんですか、それは」 「おれはそう言われて、がんばったぞ」 「なにをがんばるんですか?」 「パフォーマンスを一つしなくてはいけないんだ」 「・・・マジですか?」 「もちろん。おれはドレスを着て、フレンチカンカンを踊ったぞ。それは受けた」 「そりゃそうでしょう」 ミッターマイヤーはその姿を想像し、ふき出したくなる自分をこらえた。 しかし、自分がステージの上で同じことをしている姿を次に想像し、笑えなくなった。 そのとき。 後ろから、おもしろそうにつぶやく声が聞こえる。 「お前がミスコンに出るんだって?ウォルフ」 ・・・一番、今、聞きたくない声。 ミッターマイヤーはおそるおそる声の方を向く。 そこには、金銀妖瞳が笑っている。 「・・・やあ、オスカー」 「おれが手伝ってやろうか?」 「いいよ。・・・大体、なにを手伝うのさ?」 「美しくなる手伝いだ。お前、磨くと美人になるぞ」 いいよ、とミッターマイヤーは小さく言う。 「まあそう言うな。今日から毎日、おれがお肌のお手入れをしてやる」 「絶対に絶対に絶対に絶対に、そんなことやんなくていい!!」 ミッターマイヤーはふくれてみせる。 ロイエンタールは、そんなミッターマイヤーの様子がかわいくて、つい笑ってしまう。 「あー、また笑う!」 ミッターマイヤーはますますふくれる。 「そう怒るな。おれは本気で手伝うと言ってるんだぞ」 「こんなことで本気になるなよ」 「そうだな・・・かわいいお前を見るのはおれだけでいいからな」 まじめな顔でそう言うロイエンタールに、ミッターマイヤーは耳まで赤くなる。 「う〜〜〜〜!おれの前でいちゃいちゃするな!」 ビッテンフェルトが本気で怒る・・・いや、怒ったふりをする。 そんなこんなで、ミッターマイヤーは結局ロイエンタールの部屋にいる。 「で?」 不機嫌そうにミッターマイヤーが言う。 「怒るな。美人にしてやるから」 「男が美人になって、何か嬉しいことでもあるのか?」 「おれはお前が美人になると嬉しいぞ」 「あ!またそんなことを」 「まあまあ・・・結構カジュアルな服が似合いそうだな」 「だから、女装はしない!」 「まあまあ。似合いそうだぞ」 「おれ、女みたいな身体してないぞ」 「安心しろ。みんな似たり寄ったりだ」 「あのなぁ!」 「ほら、動くな」 「・・・なにしてるのさ?」 「なにもしてない。今からする」 そう言うとロイエンタールは、チューブのようなものから何かを出している。 「なに、それ」 無邪気に聞くミッターマイヤーに、ロイエンタールは意地悪そうな笑みで答える。 「これはな、パックという」 「パック?」 「そうだ。これでお肌がすべすべになる。女は定期的にこういうことをするんだ」 「へえ・・・」 「これは高級品だぞ。蜂蜜入りだ」 「ふうん・・・って、何でそんなものがここにあるのさ?」 「女のものだ」 「・・・女を、この部屋に入れたの?」 ロイエンタールは答えない。 「女、連れ込んだんだ・・・こんなところまで」 ミッターマイヤーはたちまち不機嫌になる。 ロイエンタールは、そんなミッターマイヤーをなだめるように、額に軽くキスをする。 「いくらおれでも士官学校の寮にまで女は連れ込まないぞ」 「・・・それはそうかもしれないけれど・・・」 「妬いてるのか?」 「違うよ・・・あん、なにするのさ?」 「パックを塗っている。顔を動かすなよ」 「顔をって、・・・なんだよ、これ!」 「女性はこれをつけて、美しくなる。20分我慢しろ。笑うなよ。顔も動かすな」 「なんだよ、もう・・・」 たちまちミッターマイヤーの顔が白くなる。顔が徐々に突っ張っていく。 「女って、こんなことまでしてきれいになりたいのか?」 「らしいな・・。大きな口開けてしゃべるなよ。しわが増えるらしいぞ」 「増えたっていいって」 そして、20分後・・・。 「ほら、やっぱりつるつるになった。元々きれいな肌だからな」 ロイエンタールはミッターマイヤーの顔を、優しく化粧水でパッティングする。 「うん・・・」 ミッターマイヤーは浮かない顔をしている。 ロイエンタールは、そんなミッターマイヤーをなだめるように言う。 「どうかしたのか?」 「・・・いつも、女性にも、こういうことするの?」 「なにが?」 「こうやって、パックしてあげて、キスして、優しく頬をなでて・・・」 「いや・・・お前だけだ」 「ならいいよ」 「・・・やはり、妬いてくれているのだな」 「知らない!!」 ぷうとふくれるミッターマイヤーがかわいくて、思わず抱きしめてしまったロイエンタールだった。 そして、なんやかんやといいながら、結局ミスコンに出る羽目になってしまったミッターマイヤーだった・・・。 |
みんな、きっと一度は書いてみたいと思うに違いない(本当か?)ミッターマイヤー女装ネタです。
みつえが書くと、どうしてもこういうシチュエーションだと士官学校に・・・すみません。
おまけにまたまた一回では終わらない・・・(^◇^;)