(2) 「またロイエンタールの部屋へ行くのか?」 ビューローが呆れたように言う。 「はい」 そう答えるミッターマイヤーの顔は・・・心なしか暗い。 ビューローが慰めるように言う。 「いいじゃないか・・・お肌もすべすべになったし」 「はい・・・」 「唇の荒れもきれいになったし」 「・・・・・・はい・・・・・・」 「髪もさらさらになったし」 「・・・・・・」 「まつげ、カールしたのか?」 「何でそんなことまで気がつくんですか!?」 「・・・したんだな」 ミッターマイヤーは、髪と同じ色なのであまり目立たないが、きれいな長いまつげをしている。 今日は、そのまつげがきれいに上を向いている。 ・・・まさか、とは思ったが。 「まつげ、ビューラーでカールしたのか?」 「いえ・・・まつげパーマ、というんだそうです」 「あいつはそんなこともできるのか?」 「女性に頼まれるんだそうです」 ビューローは、ロイエンタールがミッターマイヤーのまつげをカールしている姿を想像する。 ・・・至近距離に近づいて、きっとまつげカールだけでは終わってないぞ・・・。 毎日お手入れをしているミッターマイヤーの唇は、さぞや柔らかくて・・・ いかん、なにを考えているんだ、おれは・・・。 そんなビューローの心も知らず、ミッターマイヤーは消え入るような声で言う。 「毎日、遊ばれてるとしか思えないんです。・・・今日は衣装あわせだって」 「あえて聞くが・・・どんなのを着るんだ?」 「わかりません。オスカーがおれのサイズに合わせてオーダーしてくれたらしいけれど」 「・・・お前のサイズはどうやってわかったんだ?」 「それは・・・」 ミッターマイヤーは真っ赤になる。ビューローは、あえて聞かないことにする。 ・・・正直言うと、答えが怖い。 ロイエンタールの部屋に入ったとたん、ミッターマイヤーは絶句する。 「・・・何で、ここにいるんですか?」 「いや、おもしろそうだったから」 口いっぱいにポテトチップスをほうばったビッテンフェルトと、スポーツドリンクを手にしたワーレンがそこにいた。 「出て行ってください!おれはおもしろくも何ともないですっ!!」 小さな身体を震わせ、ミッターマイヤーが叫ぶ。 「・・・これもそう言っている、さ、出て行け」 ロイエンタールににらまれ、二人はすごすごと退席する。 二人が出て行ってからも、ミッターマイヤーは機嫌が悪い。 「どうして、あの二人が来てるのさ!?」 「お前のかわいい姿が見たいと言っていたのでな、あまりうるさいので部屋で待たせた。 どうせお前が来たら追い出されると言うことはわかっていたからな」 「・・・人のことを、なんだと思ってるんだよ。おれは見せ物じゃない」 「しかし、早かれ遅かれそうなるのだろう?」 「うっ・・・」 反論できないミッターマイヤーである。 「さ、それよりも衣装が届いた。どれが似合うか、さっそく衣装あわせだ」 そう言うと、ロイエンタールは嬉しそうに衣装箱を開ける。 ・・・自分とは違うのだ、この人は帝国騎士で、貴族で、お金持ちなのだ・・・。 その瞬間、ミッターマイヤーはそのことを実感してしまう。 目の前に広げられた女性用の服は、すべてオーダーメイドで、なかなか質のいい生地ですべて作られている。 しかし。お金もかなりかかっているだろう。 たった一回のミスコンのためにここまでするかぁ?と思ったミッターマイヤーだった。 「・・・これ、なに?」 「あ、それはうちのメイドが着ているものと同じだ。定番だな」 「なんの定番なんだよ?・・・これは?」 「それは少しお嬢様風のドレスだな。ピンクのフリルがかわいいだろう?」 「・・・これは?」 「そういうのもいいかと思ってな。パフォーマンス用にバニーガール風にしてみた」 「・・・これ、は?」 「ネグリジェか?似合いそうだぞ」 「・・・どれも着たくないよ・・・」 「まあまあ。ビッテンフェルトは、今年は白鳥の湖にするそうだ」 「え?ビッテンフェルト先輩、今年も出るの!?」 「去年、優勝できなかったからな、リベンジするらしい」 ミッターマイヤーは思わず想像してしまう・・・白いチュチュを着て、アラベスクのポーズを取るビッテンフェルト・・・。 できれば見たくない、しかし、やっぱり見てみたい・・・。 「あ、あの、他の学年は?」 「他の学年か?最上級生は審査員だから出場しない。おれたちの学年が、ビッテンフェルトだろう?あと、上級生で・・・ファーレンハイトとか言う奴が出るらしい」 「あ、知ってる。有名な人だ」 「金に厳しい、とだろう?」 「うん」 「同級生のルッツという男とペアで出るらしいぞ」 「その人は知らない・・・」 「まあ、お前よりかわいいやつはいない。安心しろ」 「こういうのを安心する、っていうのかなぁ?」 「それはさておき・・・さあ、衣装あわせを始めるぞ」 「うん」 なんやかんやといいながらも、結局ロイエンタールの言うがままになっているミッターマイヤーだった。 「・・・よし、これで決まりだな」 結局ロイエンタールとミッターマイヤーが選んだのは、シンプルな白い絹のワンピースだった。 「うん・・・これくらいなら、まだ我慢できる」 「そうだな・・・これなら、露出も少ないし、お前にあっている」 「それって、ほめ言葉?喜べないよ・・・」 「メイクも薄い方がいい。アクセサリーもシンプルに銀だな」 「アクセサリーもつけるの?もう勘弁してよ」 「コンセプトは『初めての舞踏会』でいく」 「そんなのもあるの?」 「パートナーを選ばなくてはな」 「なんの?」 「初めての舞踏会の」 「・・・オスカーでいいよ、そんなの」 めんどくさそうにミッターマイヤーが言う。 「『オスカーがいい』の間違いだろ?」 ロイエンタールは、優しく、ミッターマイヤーの手を取る。 「では、ダンスの練習もせねばな」 「いいの?」 「なにが?」 「その・・・おれと一緒に、笑いものになっても」 「ビッテンフェルトをパートナーに踊るより数百倍もましだ。それに、おれ以外の男と踊るお前は見たくない」 ロイエンタールに見つめられ、ミッターマイヤーは思わず目を伏せ・・・。 ・・・・・・その日のロイエンタールのレッスンがダンスだけで終わったかどうかは、二人だけが知っている。 ・・・そして、いよいよ士官学校祭、ミスコンの日。 |
・・・いけませんね。深読みすると、。裏っぽくなってしまう展開だ(笑)
こういう表現が苦手な方、すみませんm(__)m