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嵐のような式典が終わり、 子ども達と保護者の皆様はちゅうりっぷ組のお教室へと移動した。 ハンスもきれいな若い女の先生に着替えさせてもらい、 ちょっぴり笑顔が戻った顔で明日から半日を過ごすお部屋へと向かった。 お教室はちゅうりっぷのお飾りで装飾してある。 「ほう・・・保育園の先生というものは、やはり器用なのだな」 と、妙なところで感心するミッターマイヤー。 「プロと言うべきでしょうな」 と、ミッターマイヤーの言うことなら何でも同意するバイエルラインがうなずく。 親子で明日からのお話を聞き、子ども達はお庭で遊びだした。 教室に残ったのは、先生と、保護者のみ。 「では、最初にお母様方・・・いえ、おうちの方から自己紹介をお願いします」 先生が笑顔で話す。 「こちらからどうぞ」 指名されたバイエルライン、思わず身構える。 しかし、先鋒は武人の本懐(なんのこっちゃ(^◇^;))といわんばかりに、すっく!と立ち上がる。 「バイエルラインと申します。本日は、息子が皆様に大変ご迷惑をおかけ致しました!」 そしてきびきびと一礼する。 「何しろ、小官、いえ、わたしも子育て一年生です。 みなさまからいろいろ教えて頂ければと思います。よろしくお願いします」 ・・・・・・お父さんの挨拶としては、なかなかにいいではないか。 ミッターマイヤーは密かに感心する。 「では、次の方。どうぞ」 言われて、ミッターマイヤーが左右を見る。・・・なんだ、おれだ。 バイエルラインに(よい挨拶だったぞ)と言わんばかりに笑ってみせ (その笑顔だけでバイエルラインは幸せだった・・・・・・)立ち上がる。 だいたい、ミッターマイヤーと子ども達は帝国の中でも超有名な親子なのだから、 ここで自己紹介をしなくてもみんな知っている。 しかし、ミーハーなお母様方も、 若く、ちょっぴり、いえ、 おそらく保育園1ミーハーな担任の先生も、 実はミッターマイヤーが何と言い出すか、すごく聞きたかったのだ。 「ミッターマイヤーです。これからお世話になります。 仕事の関係で、あまり子どもにかまってあげられないのが残念ですが、 できるだけ子どもと一緒の時間を作っていきたいと思っています。 元気のいい子ども達で、みなさまにもご迷惑をおかけすることも多いと思いますが、 よろしくお願い致します」 さすが、昨日エヴァといろいろ考えながら練習しただけのことはある。 なかなか立派な挨拶だ。 お母様方からほう、というため息が漏れる。夢にまで見た?生国務尚書閣下だ。 子ども達は、そのころ、広い園庭で遊んでいた。 子どもがなかよくなるのは、本当に早い。 そして子ども達の中で一番、もしかしたら父親よりも「政治力」があるかもしれないフレイアが、 いつの間にか子どもたちの中で中心的な存在になりつつあった。 わずか数十分の間に、フレイアは、男の子からは「こいつはちょっと違うぞ」と思わせる存在に、 女の子達からは「頼りになるおねーさまみたい」と思われる存在になっていった。 「なあ、お前のファーター、こくむしょうしょなんだって?」 「うん、そうよ」 「えらいのか?」 「えらいのよ、うちゅうでいちばんえらいんだから」 「こうていへいかよりもえらいのか?」 「こうていへいかをおまもりするためにはたらいているのよ」 そう言うと、えへん!と胸を張る。 フレイアは本当にファーターが好きなのだ。 保護者会は佳境に入っている、 クラス役員を決めなければならないのだ。 いつもこの段階で、沈黙とため息が教室を支配する。 それは毎年の光景だ。 今年はどうだろう? ミッターマイヤーは悩んでいた。 以前にユリアン・ミンツに聞いたことがある。 共和制度のもとでは、政治屋とも言うべき人種が、自分の人気取りのために 子どものいろいろな役職を引き受けることが多いという。 ヨハネスとフレイアのために、親としてできるだけのことをしてあげたい。 いや、せねばならないと思っている。 しかし、それが人々の誤解のもととなってしまっては ふたりを傷つけることになりかねない。 思えば、なかなかに自由のきかない身となってしまったものだ。 (どうしましょう、閣下?)とバイエルラインが小声で聞く。 (どうしようもこうしようも、卿もおれもしょっちゅう出てこれるような身ではあるまい?) (それはそうですが・・・残念です) (うん、おれもだ) ふたりがふたりだけの会話を続けているとき、 役員はすでにすべて決まっていた。 そして、役員主催による 「先生方と保護者の親睦会」が、すでに決定されていた。 どうやらお母様方は役員の大変さよりも役員になることで かわいい国務尚書と個人的に(!)仲よくなれる方を選んだようだった。 このあと、1ヶ月に一度は保護者どうしの親睦会が開かれ、 そのたびに律儀に出席し、 バイエルラインと共にお母様方の「おもちゃ」となってしまうことを、 もちろんこの時のミッターマイヤーとバイエルラインは知らなかった。 (やはり、みなさん、子どもの教育に熱心でいらっしゃる) と、ひとしきり感心するふたりであった。 その日の夜。 双子は疲れ果て、早々と眠ってしまった。 ミッターマイヤー家の居間には、ミッターマイヤーと、バイエルラインと、 今日一日フェルの相手をしたビッテンフェルトがいた。 「そうか、フレイアがそう言うことを言ったのか。見たかったな」 「親として、恥ずかしかったです」 「いやいや、さすが疾風ウォルフの子どもだ。楽しみだな」 「卿がしこんだのであろうに」 「しらんぞ」 「・・・まあ、乾杯だ。子ども達のために」 「ああ、子ども達に」 三人はグラスを高くかかげる。 ひとときの平和と、子ども達の未来に、乾杯! |