空のむこうまで

あの空のむこうまで 行けそうな気がする
君のこと抱きしめると 自由になれるよ

どうってことない思い出なら 時が洗ってくれる
忘れたいことを なぜか 僕らはかかえちゃうもんさ・・・

「空のむこうまで」sing by YUJI ODA
(1)

士官学校の寄宿舎は、最上級生と新入生を除き、原則として同学年の生徒同士が同室になることになっている。
学年の上がったミッターマイヤーも、新しいルームメイトと一緒の生活が始まる。

(うへぇ・・・)
新しいルームメイトの待つ部屋の前で、ウォルフガング・ミッターマイヤーは常日頃の彼らしくもなく一瞬たじろぐ。

「貴族のおぼっちゃま用の部屋じゃないか・・・まいったな、こりゃあ・・・」
そうつぶやき、そのまま盛大にため息をつく。

貴族は苦手だ。

戦場ではすべての人間が等しく命を賭ける・・・そう思っていたのだが、士官学校にも厳然とした階級差が存在する。
軍歴のみを誇りたいような門閥貴族の二男・三男が時として入学してくるからだ。
そういうおぼっちゃまたちは、部屋から違う。
広いリビングと寝室、そして24時間使えるシャワールーム。
夜間訓練後、争うようにシャワールームに飛び込む自分たちとは雲泥の差だ。
彼らは講義にもあまり顔を出さずに、在籍するだけで「少尉」の肩書きを得て卒業していく。

でも、そういう人間は、同類の人間ばかりで集まるはずなんだが・・・ミッターマイヤーはいぶかしがる。
自分の同級生で、そう言う気まぐれな人間がいただろうか?
鼻っ柱だけは強い、自分のような人間と「同室になりたい」という物好きなど。

(いないだろうなぁ)
もう一つため息が出る。

そう言えば、ビューロー先輩も貴族だったなぁ・・・。
でも自分の家を誇ることなく、誰にでも公平ないい先輩だった。
・・・ミッターマイヤーは、ふとそんなことを考える。
今度の貴族のおぼっちゃまはどうなのだろうか?
願わくば、自分に好意を持ってくれていなくてもいい、
自分の邪魔をするような人物でありませんように。

・・・そう思いながら、ミッターマイヤーはドアを開ける。


「ノックぐらいしてくれ、ウォルフガング・ミッターマイヤー」
・・・聞き慣れた声。
その声を聞いたとたん、ミッターマイヤーの肩から力が抜ける。
「・・・オスカー」

「どうして、こんな・・・・・・」
ミッターマイヤーが言いかけると、部屋の主・・・オスカーフォン・ロイエンタールが笑って言う。
「貴族のばか息子が使うような部屋にいるのか、だろう?」
「うん」
「お前と一緒に今日から暮らすんだ。精一杯のもてなしをしなくてはな」
「・・・・・・」
「どうした?」
「大体、どうしてあなたとおれが同じ部屋なんだ?同学年じゃないのに」
「さあな」
それだけ言うと、ロイエンタールは薄く笑う。
「・・・なにかしたんだね、あなた」
「お前と同室になったら、無断外泊をしなくてもすむからな」
「・・・・・・」
「それに、おれと同室でも耐えていけるのはお前しかいないだろう」
「・・・それは」
「だから、ちょっと校長に手を回した」
「お金・・・・・・?」
それには答えず、もう一度ロイエンタールは笑う。
「・・・まったく」
ミッターマイヤーも苦笑で答える。
「おれの荷物はどこ?」
「もう運ばせておいた。そのドアの向こうがお前の部屋だ」
「・・・一人ずつの部屋があるの?」
「貴族のばか息子達か、金持ちのための部屋だ。自分の部屋くらいなければ、連中はいやがるだろうな」
「・・・」
「安心しろ。おれは自分の部屋に閉じこもるなんてことはしない」
「・・・そんな問題じゃないと思うんだけれどなぁ・・・・・・」
「・・・ベッドルームは共用でいいな」
「ベッドはもちろん二つあるんだよね?」
・・・恐る恐るそう聞くと、ロイエンタールは再び笑う。
「大丈夫だ。ちゃんと二つある」
「・・・よかった」
「・・・お前がその気なら、一つしか使わなくてもいいんだぞ」
「・・・ば!!」
ミッターマイヤーは、思いっきりロイエンタールを蹴り上げる。
・・・そのつもりが、ロイエンタールは鮮やかにその攻撃をよける。
「白兵戦の実習のつもりか?ウォルフ」
「・・・人をからかうから、蹴りを進呈しようと思ったんだよ」
「まだまだだな」
「そのうちにそのきれいな顔に、一発お見舞いしてやるからね」
「おもしろい。おれの顔を殴れたやつはまだいないぞ」
「じゃあ、おれが一人目になってやるよ」
「楽しみだな」
・・・二人は、顔を見合わせて笑う。

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これも入院中の妄想です。
いろいろと考えていて、次から次へとこういう妄想が・・・
しばらくはおつきあいください。・・・呆れないでね(笑)