(2) 「はあ?なんだって?」 学生食堂にビッテンフェルトの大きな声が響く。 「ビッテンフェルト、声が大きい」 ワーレンが顔をしかめて言う。 「おれはこれが普通の声だ」 「しかし、少しはまわりに遠慮しろ」 ビッテンフェルトは、ちょっとまわりを見て、そして、少し声を落とす。 「・・・しかし、これが大きな声を出さずにはいられるか。 大体、なんであの二人が同室になるんだ?学年違うだろう?」 「ロイエンタールの謀略だろう?」 ワーレンは苦笑しつつ、コーヒーを一口すする。 「学年が違うのにか?そんなこと許されるのか?」 「まあ、貴族のおぼっちゃまの気まぐれだな。 自分の使用人の息子とか気に入ったやつとかを同室に押し込むことがあるらしい」 ビッテンフェルトは、目の前のソーセージを一口がぶりと食べ、ため息をつく。 「・・・かわいそうにな」 「ん?誰がだ?」 「ミッターマイヤーだ!あいつ、これじゃまるでロイエンタールのお小姓じゃないか」 その言い方にワーレンは苦笑する。 「ミッターマイヤーが、そういうやつか?」 「しかし、まわりはそうは見まい?・・・あいつ小柄だし」 「まあ、あの二人は対照的だからな。見た目もそうだし、性格もそうだし。 お互いに違うものにひかれるというのはよくあることだ」 「・・・うまく言えんが」 ビッテンフェルトは彼らしくもなく、ためらいつつ、小声で言う。 「あいつらを二人きりにしておくと、ロイエンタールはますます閉じこもってしまうような気がするんだ」 「ほう?」 「ミッターマイヤーさえいればいい・・・そう言う気持ちになるような」 「・・・それは、なんというか・・・」 元々ロイエンタールの精神は、あまり外にむいているとはいえない。 ともすれば、自分の殻に閉じこもってしまいがちになる。 それを、今、良くも悪くも外へと向けていたのは、ミッターマイヤーなのだ。 しかし、手元にミッターマイヤーが来たとなると、 逆にロイエンタールは自分の精神世界にミッターマイヤーを取り込んでしまうのはないか。 その結果、せっかく外に向かおうとしているロイエンタールの心が、 また閉鎖された世界へと戻っていくことになるのではないか。 しかも、今度はミッターマイヤーをも取り込んで。 ビッテンフェルトが心配しているのは、そのことなのだ。 「おれたちが心配することじゃないだろう?」 と、ワーレンは言う。 「ロイエンタールはともかく、ミッターマイヤーは・・・」 「ミッターマイヤーだから、心配しているんだ!」 ビッテンフェルトは怒鳴ったような声を出す。 「あいつ、やけにロイエンタールと同調するところがあるからな・・・ いや、ロイエンタールはいいんだ。あいつはあれで変わらないからな。 ミッターマイヤーが変わった姿は正直言ってみたくない・・・」 「・・・・・・なら、おれたちはせいぜい二人の邪魔をしなくてはな」 ワーレンが彼らしくもなく、いたずらっぽい口調で言う。 そんな先輩達の心配を知ってか、知らずか。 ミッターマイヤーは部屋の中を忙しく駆け回っている。 「何をしている?」 いぶかしかしげにそう問うロイエンタールに応えようとはせず、ひたすら何かをしている。 「だいたい部屋が広すぎるんだ・・・落ち着かないよ・・・」 やがて、そういう声が聞こえてきて、ロイエンタールは苦笑する。 「そのくらい、すぐ慣れる」 「落ち着いて眠れないよ、これじゃあ・・・」 「ベッドが広すぎる?」 「うん」 「・・・なら、一緒に寝るといいじゃないか」 「うん・・・えっ!!」 「お前にしては積極的なことを言うな、ウォルフガング・ミッターマイヤー」 「・・・・・・おおばか野郎!!いつかは殴ってやるからな!」 ミッターマイヤーは真っ赤な顔をして怒鳴る。 「おい、もう夫婦げんかか?」 「いや、ただのじゃれあいだろう?」 心配して様子を見に来たとたん聞こえてきたミッターマイヤーの怒鳴り声に 思わず顔を見合わせ、そして笑いがこみ上げてくるビッテンフェルトとワーレンだった・・・。 |
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