(6)・・・蛇足かもしれない(笑)
(by みつえ)

子どものような瞳で自分たちを見つめるミュラーを、ミッターマイヤーとケスラーはただただ見つめていた。
おびえたような・・・いや、それとは違う。
まるで、何も感じていないような・・・赤ん坊のような瞳で、ミュラーは二人を見ている。

やがて、ケスラーが口を開く。
「この方が・・・彼にはいいのかもしれない・・・」
「ほう・・・なぜだ?」
ミッターマイヤーは意外なことを言う、という顔をする。
「図らずも犯してしまった自分の罪を、ミュラーに償わせるのは酷かも知れぬからな・・・」
「それはだめだ」

ミッターマイヤーのその口調に、ケスラーは何か違和感を覚える。
なんだろう?これは・・・。
いつものミッターマイヤーの顔、ミッターマイヤーの口調。
でも、なんだろう?
なにか、ひっかかる・・・。


「彼は罪を償わねばならない」
確信に満ちた表情で、ミッターマイヤーがつぶやく。
「そうしないと、われわれが今度は同じように闇にとらわれる・・・」
「みせしめ、というわけですか?」
「違う・・・」
「しかし・・・こんな状態の彼に、どうやって償えと?彼はまるで赤子のようなのに・・・」
「そうではない・・・だが」
「だが・・・?」
その口調に、ケスラーは何か危ういものを感じる。

ミッターマイヤーは天井を仰ぎ、瞑目し、ため息をつく。

「罪を償わなければ・・・」

何度も、何度も、そうつぶやく。

その表情、その瞳の色に、なにか危ういものをケスラーは感じる。
先ほどまでのミュラーと似た、なにかにとりつかれた様な・・・。

(ミュラーはその狂気にとりつかれてしまった・・・しかし、この人もとりつかれている・・・)
ケスラーはそう思わざるを得ない。
(この人は、自分自身の大義名分にとりつかれている・・・)

うわごとのように、ミッターマイヤーはつぶやき続ける。
「罪は罪だ・・・どんなときでも・・・そうでないと、われらの寄って立つ足元が崩れてしまう・・・・・・」

・・・その顔には、いつか、薄い笑みが浮かぶ。

今は、狂気の時代。


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