<5>
by 鏡さま
「また・・・会いましたね・・・もう一人の私・・・」
いつも柔らかい口調をさらに柔らかくした口調のミュラーが、下に倒れているもう一人の自分を 見下ろしていた。
「情けないですね・・・あの人が私を撃たないはずはないのに・・・」
「黙れ!」
目が血走っているもうひとりのミュラーが叫びと同時にゆっくりと起き上がる。
「あれは油断しただけだ!もう一度意識が戻ればあの男ぐらい・・・すぐにでも殺してやる!」
「もう、やめなさい・・・。あなたには勝てない・・・絶対にね・・・」
「だまれ出来損ないめ!貴様は俺の人格が完成するまでの間にだけ生きることを許された出来損 ないなのだ!そのお前が俺に俺に命令をするな!」
「ほう・・・出来損ないですか・・・。そうかもしれませんね・・・。あなたのような人に体を 支配されるような私は出来損ないですね・・・」
口許に笑みを浮かべたミュラーは腰のブラスターに手を伸ばした。
「なら私は消えなくてはならないですね・・・。私という存在は必要ない・・・いや、有害です らある・・・。そして、あなたという存在もね・・・」
ブラスターを抜くとすぐ相手の心臓に狙いを定める。
「私と一緒に行きましょう・・・」
ゆっくりと人差し指に力を入れ始めたとき・・・。
「はははは・・・・。ふざけるな。貴様などに殺される私ではないわ」
次の瞬間ミュラーの左腕に白い閃光が吸い込まれた。
ミュラーの左腕は赤い血を吹き上げずに、白い雪のような粒子を吹き出した。
「ふふふ・・・貴様は肉体ではないから血は出ないか・・・」
照準をミュラーの右腕に変えたもうひとりのミュラーは指に力を入れ始めた。
「痛みもないんですがね・・・」
その声は蚊の羽音よりも小さくもう一人のミュラーには聞こえなかった。
男<ブラック>のブラスターの銃口からもう一度白い閃光が放たれた。
その閃光はミュラーの右腕に向かってまっすぐ伸びていった・・・途中までは・・・。
閃光がミュラーの1m程のところに来たところでミュラーの体が宙に浮いた。
閃光は地面にあたり四散した。
「往生際の悪い!!」
男はブラスターの照準をもう一度ミュラーにあわせ、二回トリガーを引いた。
二条の閃光が放たれたがその閃光もミュラーにあたることはなかった。
「あなたの能力はそんなものですか・・・」
悔しがっている男の後ろにいつの間に移動したのかミュラーが立っていた。
「あなたは・・・消えるべきなのです!!」
ブラスターの閃光が男の後頭部に消え、眉間から飛び出した。
「グハァッ・・・・・・」
男の後頭部と眉間からミュラーの腕から出てきたものと同じ粒子のようなものが吹き出した。
「そして・・・私も・・・」
倒れこんだ男の姿が薄れていくのを確認したミュラーは自分の胸にブラスターの銃口を当て・・・
数秒後、ミュラーも男の後を追った・・・。
「・・・これでよかったのです、これで・・・。許してくださいね・・・ミッターマイヤ ー・・・セリナ・・・ビッテンフェルト・・・。マイ・・ン・・・カイ・・・ザ−・・・」
ミュラーの全身から粒子が立ち昇り・・・
ミュラーの体が薄くなり・・・見えなくなった・・・。
ケスラーとミッターマイヤーが処分について話し合っていると、ミュラーの眠っているはずの ベッドから音がした。
「起きたか?」
二人が立ち上がりベッドのある部屋に行くと、二対の目にベッドの上に座っているミュラーの姿 が映った。
「おい、ミュラー。大丈夫か?おい?」
ミッターマイヤーがミュラーの頬を手で軽く叩きながら呼びかける。
「・・・・・・・・・」
「駄目だ・・・。心ココにあらずといった感じだな・・・」
ケスラーの発言は完全に的を射ていた。
ミュラーの心などとうにこの世から消え去っているのだから・・・。
「しかし・・・」
諦めきれないミッターマイヤーがもう一度呼びかける。
「おい、ミュラー。俺だ。ミッターマイヤーだ。わかるか?」
「ミッター・・・マイヤー・・・?」
「ああ、そうだ!ミッターマイヤーだ」
「あなたは・・・誰ですか・・・?私のなんですか?」
ミュラーの心のないこの返事にミッターマイヤーは悟らざるをえなかった。
ミュラーの心は・・・。
肩を落としたミッターマイヤーにケスラーは
「そう気を落とすな・・・。まだ絶対にそうと決まったわけではあるまい・・・何か・・・何か ミュラーを助ける方法があるはずだ・・・」
この言葉は自分に向けられたものだったかもしれないとケスラーは思わずにはいられない。
「そうだな・・・。できる限りのことはしないと・・・」
顔をあげたミッターマイヤーは自分に言い聞かせた。
「それより・・・この事を誰に教えるかだ・・。やはり彼女には教えなければならないだろう・・・。後は・・・」
「・・・・・・・・」
これから二人の男と一人の女の戦いが始まるのであった・・・
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