ミッターマイヤー家の休日

     (7)

柔らかな朝の光に包まれて、エヴァは小さく背伸びをした。
いつもならもう起きている時刻なのに、つい寝過ごしてしまったようだ。
シーツに触れてみると、まだ愛する夫のぬくもりが残っている。
ベッドから体を起こすと、ミッターマイヤーはソファに座り、エヴァを見つめている。
「おはよう、エヴァ。朝食はルームサービスを頼んでおいたよ」
どこまでも優しいミッターマイヤーの声。
「もう少し休んでおくといい」
「ええ、ありがとう、あなた・・・でも子どもたちが帰ってくるわ」
そう言うとエヴァはガウンを羽織り、起きあがる。
乱れた髪を、そっとミッターマイヤーが指で梳く。
エヴァはくすぐったそうに微笑む。
「あなた、シャワーを浴びてきますわ」
「ああ、そうか・・・じゃ、それがすんだら急いで朝食だ」
そう言うと何がおかしいのか、急にミッターマイヤーが笑い出す。
「どうかしましたの?」
「いや、新婚旅行の時を思い出して」
「新婚旅行?」
「ほら、結婚してすぐに二人で旅行しただろう?湖のそばのコテージに」
「・・・ああ、あのときのことね」
エヴァも笑い出す。

「あなた、緊張なさって、お酒ばかり飲んでおられたわ。それもかなり強いお酒ばかり」
「うん、そうだった。初めて二人きりになったし、何を話していいか分からなかった」
「で、夜になって、急に気分が悪くなられて」
「・・・病院に連れて行ってもらったよな」

今では笑い話にできる。

悪酔いでもしたのか、足下がおぼつかない。
体中がふるえる。
街灯もついていない夜の道を、不安を募らせながら病院へと向かう。
手をさすってくれる、自分よりも弱いはずのエヴァが、本当に頼もしげに見えた。
目を閉じると、意識が遠ざかっていく。

「・・・気がつくと病院のベッドで、目の前にエヴァがいた」
「・・・・・・そうでしたわね」

病院の先生は笑いをこらえながらこう言った。
「緊張しすぎで、いつもよりも酒が回りすぎたんでしょう」
急性アルコール中毒。
大事に至らなくて幸いだったのかもしれない。

「あんまりエヴァがきれいだったから」
と、そのときのことを思い出したようにミッターマイヤーが照れながら話す。
シャワーを浴びてきたエヴァは、すでに身支度をすませている。
そんなエヴァを見て、
「あ、もちろん今もきれいだ」
と、付け加えることを忘れない。
「・・・・・・あなた、朝食を食べましょう」
これ以上話していると、子どもたちがもうすぐ帰ってくることを忘れてしまいそうだ。
うん、とうなずいたミッターマイヤーだが、そのまま名残惜しげにエヴァの髪に触れ、
そのばら色の唇にそっと口づけた。


「夕べは大変だったぞ」
明らかに寝不足の顔で、ビッテンフェルトがつぶやく。
「もう少しで我々は身ぐるみ覇がされるところでしたよ」
ミュラーも、冴えない顔でうめく。
「なにをしたんだ?」
とのミッターマイヤーの問いに答えたのは、ヨハネスだった。
「フェルとフレイアは今日は大金持ちなんだよ」
「・・・カードか?」
「まあね」意味ありげに微笑むフレイア。
「子どもが賭け事をしちゃいかんとあれほど言ってるだろう」
「・・・ごめんなさい、ウォルフ」
素直にフェルに謝られてそれ以上怒れなくなったミッターマイヤーである。
「・・・すまなかったな、ビッテンフェルト、ミュラー。いくらやられたんだ?」
「いや、いいって」
「今年度の補正予算に比べたら少額ですよ」
「おれが返すよ、いくらだ?」
「いいっていいって、子どものやったことだしな」
「気にされなくて結構ですよ」
「本当にすまん、今夜『海鷲』でおごるよ」
「・・・いただきましょう!」
こう言うときは声もそろう両提督である。


「・・・そんなについていたのか?」
帰りの地上車の中そう聞いたミッターマイヤーに、
フレイアはこれ以上ないと言うくらいの意地悪い笑顔で答えた。
「ウォルフガング・ミッターマイヤー譲りのいかさまをしてみただけよ」
両提督の目が点になった。
・・・・・・さすがは疾風ウォルフの娘だ・・・・・・。
「フェルは?」
「ぼくはそんなことしないよ。正々堂々といただきました」
こちらは晴れ晴れとした笑顔。


この強運も、きっと父親譲りに違いない。
人を食ったような態度もきっとそうだ。
ああ、そうに違いない!!
こいつらは、きっと、大物になるぞ・・・。
一人うめくビッテンフェルトであった。


ささやかな“祭り”が終わり、明日からは、また、日常が始まる。


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いい休日でしたね、ミッターマイヤー閣下 (^_-)-☆
親はなくとも子は育つと申します。
あなたの子どもたちは、みんな、立派に育っていますよ。ご安心ください。
・・・・・・天上の金銀妖瞳閣下も、きっと喜んでくださっていると思います。