Episode 2 Johanes Mittermeire


ぼくが「軍人になる」と言ったとき、父はまだ幼いぼくの頭をなで、笑っただけだった。
次に「軍人になる」と言ったのは、士官学校の受験の時。
父は、猛反対した。

「お前に人殺しはできない。お前は心優しいから・・・」

でも、結局、ぼくは父と同じ道を選んだ。


ぼくは、同じ双子なのに、どうしてぼくとフレイアはこうも似ていないのか。
ぼくは、いつもそう思っていた。

ぼくは、父にも母にも似ているとよく言われる。
それを誇りにも思っている。
父の公明正大さ、度量の大きさ。
ぼくもそうありたいと思ってきたし、そうなろうと努力もしている。
父とぼくの違いは、ぼくはそうなるために努力が常に必要だ、と言う事。

母の優しさ、すべてを包み込むような・・・それも似ている、と言われた事がある。
父がぼくが軍人になる事を望まなかったのは、それ故だ、と思う事もある。
・・・確かに、ぼくが母の気質を継いでいるのなら、ぼくには軍人はつとまらない。


フレイアと話していると、ぼくは不思議な気分に駆られる事がある。
会った事のない、映像でしか見た事のない、あの人に、彼女は似ているような気がする。

金銀妖瞳の、あの、もういない元帥閣下。
フェリックスの、血統上の父親。

フレイアの話し方は、あの人に似ている。
話し方だけじゃない。
どうしても素直になれないところ。
やけに人肌恋しがるところ。
皮肉屋で、強がりばかり言っていているところ。
それでいて、しっかり一人の人間に甘えているところ。
・・・本当に、そっくりだ。

それが生まれついてのものなのか、それとも、まわりからそうあってほしいと期待され、彼女が無意識にそれに答えていった結果なのかは、ぼくにはわからないけれど。


みんながぼくたちに言う。
ぼくたちが生まれた日は、運命の日、だと。

双璧と言われた二人。
その片翼が失われた日、もう片方の翼の持ち主の子どもとしてぼくたちは生まれた。
誰だって運命を感じる。

フレイアは、ぼくの分までその運命を背負い込んでいるのかもしれない。
ぼくがロイエンタール元帥の呪縛から自由である事ができたのは、あの子のおかげかもしれない。

フレイアはよく言う。
「わたしがウォルフを守るのよ」

それは、きっと、もういない元帥閣下と同じ思い。


「ベイオウルフをもう一度宇宙に還したい」

その思いが、小さな少年だったぼくを動かし、ぼくを軍人にした。
父みたいに軍の最高位、元帥の地位を、などと思った事は正直言ってない。
もちろん、宇宙艦隊司令長官などとは・・・ぼくにはできそうにない。

でも。
ぼくが父の跡を継いだ事でフェリックスは「ミッターマイヤー」の名前から自由になれた。
なら、ぼくがあの日に生まれた事も、やっぱり運命なのだろうか?


「お前は優しい子だから、軍の司令官にはむいていない。
そうだな・・・軍医になるといい。
人殺しの命令など、お前には出せない」


士官学校への進学を決めたとき、父はそう言って反対した。

でもぼくは知っている。
ぼくに、家族に、限りなく優しい父。
でも、その父は、戦場では鬼神のようであった事を、ぼくは知っている。
士官学校のライブラリで、ぼくは、その記録をあきることなく、毎日見ていた。


ぼくは・・・人にはそれぞれ、それぞれの責務があると思っている。
ぼくが自分でぼくに課した責務は、疾風ウォルフのような軍人になる事。
できれば、父をこえるような軍人に。
・・・そう言えればいいのだが、ぼくには無理だろう。
それも知っているつもりだ。
(実は、ぼくの理想とする軍人はミュラー元帥なのだけど・・・これはまだ父にも言っていない。
聞いたら怒るかな?)

ぼくは、父がかつて望んでいたように、単なる軍人で一生を終えたい。
「父親の後継者に」
そう言う声を聞いた事もあるけれど、ぼくはごめんだ。
ぼくには政治はむいていない。

国務尚書などという、自ら望んだわけでもない道を進まねばならなかった父。
それでも、自分の置かれた立場を受け入れ、必死になって勤め上げ、そして、その実りをすべてアレク陛下とヒルダ皇太后に引き渡して、静かに去っていこうとしている。
そんな父にすれば、ぼくの進もうとしている道はわがままこの上ないものかもしれない。

でも、ぼくは、ぼくの道を歩みたい。


自分の信じた道を進む。
そして、父のように、よき伴侶を見つけ、小さくても幸福な家庭を築く。
父のように、よき友人に出会い・・・。

できれば、その友人と、生涯を共に進みたい。

そのことが、12月16日、運命の日に生まれたぼくへの、ぼくなりの答え。
・・・ぼくは、そうせねばならないのだ。




ぼくは、父のように、すべてを分かち合える親友を持つ事ができるのだろうか・・・?

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ヨハネスの、すべてを分かち合える親友が、フェリックスであったら・・・
作者は勝手に、そう願っているのですが・・・