(6) 時間にして、わずか5分ほどだっただろうか。 やがて場内放送と共に、「確定」のランプがともる。 ・・・ファーレンハイトは、そのまま、2着。 「やったぁ!」 バイエルラインが、普段の彼からは考えられないような大きな声ではしゃぐ。 もともと子どものようなところもある男だが、こんなはしゃぐ姿はミッターマイヤーも見たことがない。 「どうやら、進路を妨害したことにはならなかったらしいな」 と、にわか競馬評論家?ビッテンフェルトが、もっともらしく言う。 その慣れた言い方に、思わずラインハルトが感心したように言う。 「ビッテンフェルトもかなり詳しくなったのだな。では勝ち馬投票券の買い方を教えてもらおうか」 「御意!」 嬉しそうなビッテンフェルトである。 「よかったな、バイエルライン」 敬愛する上官にそう言われて、バイエルラインの喜びは頂点に達する。 「はい!ほめてあげたいと思います」 「卿の馬と言っても、共同馬主だからな。逆に、他の共同馬主の方と喜びを分かち合えるというわけか。うらやましいな、バイエルライン」 「い、いえ、わたしも、いや、小官も、いつかは閣下のように一頭を自分で持てるようにがんばりたいと思います」 それを聞いていたロイエンタールの心の中に、ある一つの考えがよぎったが、まだ誰もそのことを知らない・・・・・・。 ビッテンフェルトは、ラインハルトとキルヒアイスの両名に必死になって馬券の買い方を教えている。 つい数週間前には自分が生徒になってミッターマイヤー“先生”から教えてもらっていたというのに・・・。 (何事にも理論でなく、実践だな) と、妙に感慨深げになる提督方だった。 さて、いよいよメインレース。 バイエルラインと、トリスタンと、ベイオウルフ。 名前だけでもわくわくしそうな3頭が、思いっきり関係者の3人の目の前で走る。 これは何かあるかもしれないぞ・・・。 そう思い、某砂色提督は、今日はモバイルのパソコンまで用意している。 もちろん、何かあったらデジカメで撮り、邪魔が入る前にモバイルに保存してしまうつもりなのだ。 初めて隠し撮り?の喜びを知った、あの日以来の興奮が彼を包む。 ファーレンハイトは、水色の瞳を思案に曇らせている。 さて、どう買うべきか。 ・・・一番人気は、もちろんミッターマイヤーのトリスタンだ。 2歳チャンピオンの意地にかけても、ここは勝っておきたいところだろう。 しかし。 (こないのではないか?) そういう考えが、なぜかファーレンハイトを支配している。 長年培った、用兵家としてのカンか・・・。(←おい!) 圧倒的な一番人気が来ないとなると、さて、次に来るのはどの馬か・・・。 そんなファーレンハイトに、ルッツが話しかける。 「卿は、どの馬が来ると思う?」 その瞳は、サングラスの下にありよくわからぬが、もうおそらくは藤色に変わっているのだろう・・・。 「さあ。しかし、おれはトリスタンは買わぬ」 「なぜだ?」 「カンだ」 「なるほど・・・」 ルッツは考え込む。 「おれもトリスタンは来ないと思う・・・あの馬のピークは2歳時だったような気がしている」 「では、どれが来る?」 「わからぬ。バイエルラインは役不足だし」 といいながら、ルッツが見たのは、馬ではなく、「青二才」のバイエルライン。 「ロイエンタールの馬はどう思う?」 「ロイエンタールは馬に関しては素人だ。そこまで期待はできまい」 「う〜む・・・」 真剣に考え込む二人。 「馬券は買ったのか?」 ロイエンタールに、ミッターマイヤーが話しかける。 ・・・思わず、その場にいたほとんどの提督方が耳をそばだてる。 もちろん、ラインハルトも、キルヒアイスも、例外ではない。 「ああ、昨日、もう買ってある」 「早いんだな」 「卿らとは違って、そこは抜かりはない」 「・・・おれの、その、旗艦の名前の馬を・・・」 「もちろんだ、ウォルフ」 (お、名前で呼び始めたぞ) (そろそろ二人の世界に入りますか?) (うーん、まだまだかな?) (しかし、すでにオーラが出てるぞ) 「すまないな、オスカー」 「なにがだ?」 「いや。おれの趣味にお前まで巻き込んでしまって・・・結構お金を使ったんじゃないのか?」 「そんなことの心配は無用だ、ウォルフ」 「ならいいんだが・・・」 「おれも好きでやっていることだ。気にすることはない」 (卿、ではなくて、お前・おれなのか?) (あ、閣下、はい。あの二人は、二人の世界に入られたときはお互いにお名前で呼ばれますし、お前・おれの関係に・・・) (そうか。今度から気をつけてみておこう。で、二人はやっぱりそういう関係なのか?) (ラ、ラインハルト様!) (どうした?キルヒアイス、真っ赤だぞ) (・・・いえ、なんでもありません) (どうでしょうか?一応ゴールデンバウム朝の法律ではそういう関係は有罪になりますので・・・) (ではあの二人のためにも、宇宙を手に入れねばならぬな) (御意!!) 二人の関係を勝手に推測し、勝手に話を進めていく提督方であった・・・。 しかし、この推測はどこまで当たっているのか・・・・・・。 ちなみに、すでに二人の世界に入り込んでいる双璧には、もはや傍らで複雑な顔をしているバイエルラインのことなど眼中になかった・・・。 そして、こんな提督方を尻目に、メインレースが始まろうとしている。 すでに馬は入場し、ゲートインを始めている。 「男同士でも、やっぱりキャベツ畑に赤ん坊ができるのだろうか・・・?」 ふとつぶやいたこのラインハルトの疑問は、幸いなことに、キルヒアイスの耳にしか届かなかった。 |
いよいよレースです。やっとベイオウルフが登場だわ・・・C=(^◇^ ; ホッ! ・・・確か、ルドルフ大帝の時に、同性愛は犯罪になってましたよね? みつえの記憶はちょっと曖昧ですが・・・・・・。 |