(13) ミッターマイヤーは、一年上の先輩の部屋で過ごすことが多くなった。 たいていはビッテンフェルトかワーレンの部屋だ。 ロイエンタールは・・・なぜか、ミッターマイヤーとふたりきりになることを避けているようだった。 そのことを、ミッターマイヤーは気にする風でもない。 「ロイエンタールは人とのかかわりが怖いんですよ」 と、ミッターマイヤーはビューローに言う。 ミッターマイヤーがいつの間にか「ロイエンタール先輩」から「ロイエンタール」に、 呼び方が変わっていることにビューローは気がついていた。 ・・・それにしても、今までロイエンタールをそう言う風に見ている人間が何人いただろうか? 「怖い?あいつが?」 ビューローにも、そう言われてもぴんとこない。 ロイエンタールは、いつも自信たっぷりで、自尊心が強くて、鼻持ちならない後輩。 そう言う風にしか見ていなかった。 「ロイエンタールは今まで人とふれあったことがないから怖いんですよ。人と心を通わせることが」 人間嫌いのロイエンタール。 女好きで、次から次へと冷酷に女を変える、ロイエンタール。 あいつが、人とふれあうのが怖い、だと? 「そうなのか?」 こいつには、ロイエンタールが違って見えるらしい。 「・・・ミッターマイヤー。お前、ロイエンタールをどう思う?」 「え?」 「あいつはお前には、どう見えているんだ?」 「誰も信じられない、小さな、かわいそうな子ども」 「え?」 「・・・なんちゃって・・・うそですよ」 ビッテンフェルトの部屋に招かれ、教官の悪口で盛り上がる。 ワーレンの部屋で、いろいろな戦略・戦術論の話を聞く。 そんなとき、いつの間にか、部屋の中にロイエンタールも来ている。 特に、話をするわけでもない。 目を合わせることも少ない。 でも、そばにいて、存在を感じていられる。 それでいいのだ、とミッターマイヤーは思う。 ロイエンタールの心に、これ以上踏み込む必要はない。 そんなことをしたら、ロイエンタールを深く傷つけるかもしれない。 この人は、人と関わること自体が、今までは苦痛だったのだ。 ・・・それはもしかしたら、ミッターマイヤーの思いこみかもしれない。 しかし、今は、それだけでいいのだ。 ビューローはおもしろくない。 だんだん、ミッターマイヤーが離れていく。 もちろんそんなことを表に出したら、 「ビューローはロイエンタールに嫉妬している」 と言われそうなので、絶対に出さない。 「この年で、父親の心境を味わうとは思っても見なかった」 ・・・と、唯一心境を告白した相手が、ベルゲングリューンだった。 先日の実戦演習で、たまたま同じ艦隊に配属されたふたりは、急速に親交を増していた。 ミッターマイヤーではないが、心が呼び合う友というのは本当にいるものだ。 それはつきあった時間の長さと比例するものではないらしい。 ・・・その点では、ミッターマイヤーの心情も理解できるのだが。 「・・・卿は苦労性だな」 ベルゲングリューンがおもしろそうに言う。 「自分でも驚いているんだ。おれだって、こんなに人と関わったことはないんだぞ」 とビューロー。ロイエンタールだけでないんだぞ、と言いたげだ。 「なら、いっそのこと、父親らしく殴ってはどうだ?」 「は?」 「昔から娘を寝取られた父親はそうするものだと昔から決まっている」 「おれをからかってるのか?」 「あたりだ」 ビューローは頭を抱える。 いつの間にか眠ってしまったロイエンタールの横顔を、ミッターマイヤーは見つめている。 「あいつが、人のベッドで寝るとはな。初めてだ」 ワーレンが呆れたように言う。 「女のベッド以外では、だろ?」 ビッテンフェルトが、なぜか嬉しそうに言う。「いい傾向だ」 「疲れているんだ・・・」 ミッターマイヤーが、誰にともなく言う。 「そりゃあ、毎晩のご乱行だからな。疲れるだろう」 ビッテンフェルトがからかうように言う。 「そうじゃなくて、うまく言えないけれど、その・・・」 それ以上なにも言わずに、ミッターマイヤーは顔にかかったロイエンタールの前髪をそっとかき上げる。 ロイエンタールが、小さく動く。 金銀妖瞳が薄く開かれる。 「ごめん、起こした?」 「・・・いや、心地いい・・・・・・」 そのまま、とロイエンタールが小さな声で言う。 ミッターマイヤーは頷くと、そっと額に手を当てる。 小さな子どもに、母親がするように、優しく。 母親にいつもそうされていたミッターマイヤーは、自分がまるで母親のようだと思った。 しかし、それがなぜか心地よかった。 ロイエンタールは額にのせられた手の温かさを感じつつ、 どうしてこんなことで自分はこうも安心するのか、理解できずにいた。 わかっているのは、いつまでもそうしていたいと願っていることだけだった。 |
ミッターマイヤーのロイエンタール感はみつえと同じものです。 ご異論もあるでしょうが・・・・・・。 しかし、本当に終わってくれないわ。どうしよう・・・ごめんなさい・・・ |