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「ビューロー、お前のところの1年生な」 同級生に突然話しかけられて、ビューローは書いていたレポートのペンを止める。 「ミッターマイヤーがどうかしたのか?」 「気をつけろよ。狙われてるぞ」 「狙われてる?」 「恒例の“賭”だよ」 「・・・ああ、あれか」 ビューローは苦笑で応える。 「大丈夫だろ。あれで結構強いぞ」 士官学校にはもはや伝統となっている“賭”がある。 それは、かわいい、まだすれていない1年生に対しての、まあ軍隊流の洗礼というものだ。 もちろん相手に危害を加えるわけにはいかないので、その賭はちょっと変わった形で行われる。 「“賭”ですか?」 「ああ、気をつけろよ」 最近なにかと目をかけてくれる一年上の先輩、ビッテンフェルトがわざわざ教室まで忠告に来てくれた。 「大丈夫ですよ。けんかなら負けません」 「それがな、けんかじゃないんだ」 「はあ?」 「狙われてるのは」ビッテンフェルトはミッターマイヤーの唇をちょん、とつつく。 「これだ」 ビッテンフェルトはおもしろそうに説明する。 士官学校の伝統とは。 「一番のかわいこちゃんがターゲットになるんだ。今年はお前だな」 「自分ですか?」 「ああ、ちびだし、童顔だし。おまけにこのふわふわの金髪だしな」 「・・・からかいにきたんですか?」 ミッターマイヤーが上目遣いにビッテンフェルトをにらむ。 ビッテンフェルトはおかしくなる。 こう言う顔がかわいいんだな、だから、こいつが賭の対象になるんだな。 そう考えると、おかしくなる。 「いや、忠告だ。忠告」 「・・・ならからかっていないで、早く教えてください」 「お前を誰が落とせるか、だ」 「え?」・・・ミッターマイヤーは、まだ要領を得ない。 「お前にキスができたら勝ちだ」 「・・・ばかばかしい!男同士でしょ?」 「退屈なんだな、みんな。おまけに卒業したら、待っているのは勝利か、死かだからな。忘れたいこともある」 「そのためにかわいい下級生をからかうんですか?」 「軍隊の中ではよくあることだぞ」 「先輩も、自分をそう言う目で見ているのですか?」 「ばかやろう!おれにはその趣味はない!」 ビッテンフェルトはわざとらしく、大きな声で言う。 「・・・ま、気をつけろよ。どんなやつでも相手は先輩だからな。士官学校の先輩後輩は絶対だ」 「じゃ、抵抗せずにやられろ、ってことですか?」 「それも性に合わないだろ?」 「あいませんね」 「なら、手加減しつつ抵抗しろよ。お前は手加減したくらいでちょうどいい」 「心がけておきます」 ミッターマイヤーは、後年“疾風ウォルフ”と呼ばれるようになった時と同じ、不適な笑いをする。 「へえ・・・」ビッテンフェルトはちょっと驚く。 「お前はそういう顔もできたんだな」 「照れるからやめてください」 本当に照れたように、ミッターマイヤーがつぶやく。 その表情は、いつものものに戻っていた。 「お前も賭に参加しないか?」 同級生にそう言われて、ロイエンタールは首を横に振った。 「興味ない」 理由を聞かれて、ロイエンタールはそれだけ言った。 「別にキスしてみろと言っている訳じゃない。 お前も一口乗らないか、と、そう言っているんだ」 「だから遠慮すると言っている。結果がわかっている賭は成立しない」 「どっちが勝つって?」 「あの1年生は髪の毛一本たりとも触れさせはしまい」 「あんなちびでひ弱な平民が、か?」 「甘く見ると、大やけどをするぞ」 「・・・・・・」 ロイエンタールの同級生は、肩をすくめる。こいつは何を言ってるんだ?といわんばかりに。 ロイエンタールはと言えば、もう興味がないと言った顔になっている。 |
ああ・・・・・・短いわ(^.^; ミッターマイヤー、貞操の危機だわ・・・。 がんばれ、エヴァとオスカーのために、貞操を守り抜くのよ!ヘ(__ヘ)☆\(^^;) |