若葉のころ

(5)

「ビューロー、お前のところの1年生な」
同級生に突然話しかけられて、ビューローは書いていたレポートのペンを止める。

「ミッターマイヤーがどうかしたのか?」
「気をつけろよ。狙われてるぞ」
「狙われてる?」
「恒例の“賭”だよ」
「・・・ああ、あれか」
ビューローは苦笑で応える。
「大丈夫だろ。あれで結構強いぞ」


士官学校にはもはや伝統となっている“賭”がある。
それは、かわいい、まだすれていない1年生に対しての、まあ軍隊流の洗礼というものだ。
もちろん相手に危害を加えるわけにはいかないので、その賭はちょっと変わった形で行われる。


「“賭”ですか?」
「ああ、気をつけろよ」
最近なにかと目をかけてくれる一年上の先輩、ビッテンフェルトがわざわざ教室まで忠告に来てくれた。
「大丈夫ですよ。けんかなら負けません」
「それがな、けんかじゃないんだ」
「はあ?」
「狙われてるのは」ビッテンフェルトはミッターマイヤーの唇をちょん、とつつく。
「これだ」

ビッテンフェルトはおもしろそうに説明する。
士官学校の伝統とは。

「一番のかわいこちゃんがターゲットになるんだ。今年はお前だな」
「自分ですか?」
「ああ、ちびだし、童顔だし。おまけにこのふわふわの金髪だしな」
「・・・からかいにきたんですか?」
ミッターマイヤーが上目遣いにビッテンフェルトをにらむ。
ビッテンフェルトはおかしくなる。

こう言う顔がかわいいんだな、だから、こいつが賭の対象になるんだな。
そう考えると、おかしくなる。
「いや、忠告だ。忠告」
「・・・ならからかっていないで、早く教えてください」
「お前を誰が落とせるか、だ」
「え?」・・・ミッターマイヤーは、まだ要領を得ない。
「お前にキスができたら勝ちだ」
「・・・ばかばかしい!男同士でしょ?」
「退屈なんだな、みんな。おまけに卒業したら、待っているのは勝利か、死かだからな。忘れたいこともある」
「そのためにかわいい下級生をからかうんですか?」
「軍隊の中ではよくあることだぞ」
「先輩も、自分をそう言う目で見ているのですか?」
「ばかやろう!おれにはその趣味はない!」
ビッテンフェルトはわざとらしく、大きな声で言う。
「・・・ま、気をつけろよ。どんなやつでも相手は先輩だからな。士官学校の先輩後輩は絶対だ」
「じゃ、抵抗せずにやられろ、ってことですか?」
「それも性に合わないだろ?」
「あいませんね」
「なら、手加減しつつ抵抗しろよ。お前は手加減したくらいでちょうどいい」
「心がけておきます」
ミッターマイヤーは、後年“疾風ウォルフ”と呼ばれるようになった時と同じ、不適な笑いをする。

「へえ・・・」ビッテンフェルトはちょっと驚く。
「お前はそういう顔もできたんだな」
「照れるからやめてください」
本当に照れたように、ミッターマイヤーがつぶやく。
その表情は、いつものものに戻っていた。

「お前も賭に参加しないか?」
同級生にそう言われて、ロイエンタールは首を横に振った。
「興味ない」
理由を聞かれて、ロイエンタールはそれだけ言った。
「別にキスしてみろと言っている訳じゃない。
お前も一口乗らないか、と、そう言っているんだ」
「だから遠慮すると言っている。結果がわかっている賭は成立しない」
「どっちが勝つって?」
「あの1年生は髪の毛一本たりとも触れさせはしまい」
「あんなちびでひ弱な平民が、か?」
「甘く見ると、大やけどをするぞ」
「・・・・・・」
ロイエンタールの同級生は、肩をすくめる。こいつは何を言ってるんだ?といわんばかりに。
ロイエンタールはと言えば、もう興味がないと言った顔になっている。

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ああ・・・・・・短いわ(^.^; 
ミッターマイヤー、貞操の危機だわ・・・。
がんばれ、エヴァとオスカーのために、貞操を守り抜くのよ!ヘ(__ヘ)☆\(^^;)