ミッターマイヤー家の休日

(2)

大きなゲートが見えてくると、マリテレーゼが歓声を上げる。
「見て!ファーター!」
「ああ、もうすぐだな」
遊園地というものは、大人でもわくわくするものだ。
ことにミッターマイヤーは子ども時代どちらかというと遊園地よりも野山を駆けめぐって遊んだ方なので、
いまだに「遊園地」にはわくわくするものを感じる。
もちろん分別あるお父さんとしてはそんなことはおくびにも出さないが。

「どれから乗りたいですか、ウォルフ?」
エヴァにそう聞かれて、思わず、「やっぱり定番の・・・」といいかけ、
「あ、いや、子どもたちに聞いてみよう」
と言う、そう言う夫がエヴァにはかわいくてかわいくて仕方がない。
なんだかもう一人大きな息子がいるようだ。
遅くに小さな子どもが生まれたせいか、彼女の夫はいつまでも少年のようなところが抜けきれないでいる、
とエヴァは思う。
「ムッター、そんなにファーターを見つめないの!」
最近ますますおしゃまになっているフレイアが、からかうように言う。
言われて少し頬を染める国務尚書夫妻であった。

子どもたちがあらかじめ決めた戦略に基づいて、遊園地の乗り物が次々に攻略されていく。
さすが疾風ウォルフの子どもたち、戦況を見極め、柔軟な戦略で効率的に乗り物を制覇していく。
重点的な地点をしっかり押さえつつ、タイムロスが生まれないように行動している。
(ここまでいろいろ遊ぶと、遊園地側も満足だろうなぁ)
と、変なことを考えたミッターマイヤー。
そんな彼の手をひいて、マリテレーゼがおねだりをする。
「ね、ファーター、あそこ、ソフトクリームがある」
「食べたいか?」
「うん!!」
と答えたのは、子どもたち全員。
「じゃ、ファーターとムッターの分も買ってきてくれ」
「いいよ!」
そう返事をして、真っ先にヨハネスが走っていく。


そのころ。国務尚書一家を狙う黒い影が二つ。


「おい、いいのか?」
「いいんですよ。家族団らんのミッターマイヤー閣下。
滅多にないシャッターチャンスですからね。
これでまたHPのカウンターもどんどん回ってくれますし」

ナイトハルト・ミュラー、
国務省非公式裏サイト「あなたの知らない蜂蜜閣下」の管理人である。
(そんなん作っていいのか??)。
今日はもちろんミッターマイヤーと休暇をあわせて取り、
これまた無理矢理休暇を取らされたビッテンフェルトと共に取材中である。
手にはもちろん、最新式のデジカメがある。

「あ、ソフトクリームを食べられている・・・(カシャカシャ)口のまわりにアイスが!
こういう画像は若い女性に人気があるのですよ。(カシャカシャカシャ)
なんでも『母性本能をくすぐられるわ(はぁと)』だそうですよ」
「・・・それは卿の彼女の言い分か?」
6歳年下の彼女ともうすぐ結婚と言うところまで話が進んでいるミュラーをからかうようにビッテンフェルトが言う。
「そうですよ。彼女もそう言ってました。
ちなみに彼女はミッターマイヤー閣下の他のファンサイトも毎日のぞいているそうです。
チャットで友だちもできたとか言ってました」
「40男に母性本能も何もあったもんじゃなかろうに」
(作者も今気がついたが、この話の中では蜂蜜閣下はもう40代。
違いが分かる男の年代だったのだ・・・う〜ん、少し渋いキャラにした方がよかったかな?)
「最近の女性誌の特集をごらんになっておられませんね?
『少年の瞳を持った大人の男大特集』と言うのが多いんですよ」
「それも彼女から見せてもらったのか?」
「そうです」
「それは、もしかしたらミッターマイヤーのことか?」
「他に誰がいます?・・・あ、バイエルラインも写真が載っていましたね」
「・・・・・・最近の若い女性の趣味はわからん」
首を振るビッテンフェルトである。

ちなみに彼の妻は2つ年上でしっかりしたところのある女性である。
尻に敷かれていると言う情報がミュラーの所にははいっているのだが、それは別の話として。

・・・もちろん、シャッターチャンスを狙う2つの影を尾行しているもう一つの影には気がつかない
にわかパパラッチのふたりであった。


『どうしますか?』
「気にするな、あのふたりは人畜無害だ。
それに、いざとなったら閣下をお守りする戦力になる。ほおっておけ」
SPの報告に、苦笑してそう答えるケスラー。
実はケスラーの妻マリーカもミュラーのサイトの更新を楽しみにしている一人なのだ。
しかし、公私混同はしないぞ!と心に決めているケスラーであった。
(決めているだけであったが・・・)

BGM:チャイコフスキー 組曲「くるみわり人形」より 中国の踊り

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遊園地って、大人が行ってもわくわくしません?
いやなことも、つらいことも、忘れて、今日一日楽しみましょう、ね、国務尚書閣下。

パパラッチのふたりは、まあ、定番?ということで・・・(^.^;