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日がかげってきて、さすがにパワフルな子どもたちにも疲れが見えてきた。 遊園地定番?のポップコーンと風船を手に、マリテレーゼも満足そうだ。 「ねえ、ファーター、おんぶ」 そう言いながらミッターマイヤーに甘えてくる。 「よしよし」 疲れていないわけではないが、 このくらいの疲労など宇宙空間での艦隊戦に比べたらどうということはない。 ひょい!とマリテレーゼを肩車する様子はまだまだ若々しく見える。 20代と言っても通じるかもしれない、 と、ふと考えるパパラッチ提督、ミュラーとビッテンフェルト。 「・・・童顔はこういうときは得ですね(ひそひそ)」 「まったくだ。うらやましい(ひそひそ)」 「本当です(こそこそ)。」 そう言いながらデジカメのシャッターを切るミュラー。 パパラッチといえど、節度ある取材ぶりなのはさすが?帝国軍人と言うべきであろう。 木登りという生まれて初めての大冒険を成し遂げ、 ヨハネスの少年めいた顔に笑顔が広がる。 ほっぺの擦り傷も、今日は大切な勲章だ。 「登り棒と違って、ちゃんと足が引っかけられるところがたくさんあるんだね」 「木は生きているからな」 「なんか登っていて、足の裏が暖かいんだ。それも生きているから?」 「そうだ」 「裸足で芝生の上歩いても気持ちいいよね。それも生きているから?」 と、これは肩の上のマリテレーゼ。 「そうだよ。命があるから優しく受け止めてくれるんだ」 「そうなんだ」 よく分からないなりに納得しているマリテレーゼである。 「なあエヴァ、今日は外食しないか?」 突然ミッターマイヤーが言う。 「エヴァも疲れただろう?」 「いいのですか?」 「この中のレストランだったらいいだろう?」 これは、エヴァと、警備の責任者たるケスラーに配慮しての一言だ。 「レストラン!行く行く!!」 ミッターマイヤーの肩の上で、マリテレーゼがにこにこしている。 「・・・じゃ、決まりだね」 フェリックスがそう言うと、ヨハネスもうなずく。 「ここ、夜のライトアップもきれいなのよ」 珍しくフレイアがミーハーな?意見を言う。 帰りかけていたミッターマイヤー一家は、もう一度遊園地の中へと戻っていく。 幸い明日も休みだ。 遊園地の中のリゾートホテルに泊まってもいいかな?とミッターマイヤーは考えていた。 どうせビューローとケスラーのことだ。 そうなった場合のことも考えていろいろ手配してあるだろう。 せっかくの休みなのだ、有益にすごそうではないか。 ケスラー差し回しの私服の憲兵たちにも安堵の表情が広がりつつある。 長かった長かった一日が終わろうとしている。 今日は彼らにとっても、疲れたがいい日だった。 久しぶりに笑顔全開のミッターマイヤー閣下を見ることができた。 おまけに最後には、自分たちの思惑通り、リゾートホテルに向かわれている。 いろいろ夜の街をうろうろされるよりはずっと警備しやすいというものだ。 もちろんホテルにはすでにビューローがいた。 ホテル側といろいろ打ち合わせ、 もしも閣下が来られたときには“それなりの”スィートルームを用意できるようにしてある。 「最上級でなくてよろしいのですか?」 とのホテル側の問いを、ビューローは一蹴した。 「閣下のご気性から、それはないだろうな。 そう・・・限りなく2流に近い1流、といったところがお好みかな」 「さすが、庶民派宰相でいらっしゃいますな」 「まあな」 庶民派、なのではなく、本当は根っからの庶民なのだ。 ご自分でも今の地位にはいつもとまどわれていらっしゃる。 ビューローはそう思っているが、口に出しては言わない。しかし、 「過剰なサービスは、くれぐれも慎んで頂きたい」 と、釘を刺すことだけは忘れなかった。 「もしかしたら男ふたりで閣下の近くの部屋に泊まろうとするやつが来るかもしれん。 そのときは同じ階の部屋を取ってやってくれ。オレンジの髪の男と砂色の髪の男だ」 と付け加えることも、もちろん忘れない。 電話でホテルに予約を入れ、もちろんレストランに予約を入れ、 「これでよし」とご満悦のミッターマイヤー。 今夜はホテルでゆっくり過ごそう。 ちゃんと寝室が複数ある部屋が取れたし(おい、何を考えてる??)。 準備はしてきていないが、こういう場合はきっと部下がホテルまで届けてくれるだろう。 そう考えると始終警備陣に囲まれていることも、たまにはメリットになる。 公私混同と言われるかな? ふと考えるミッターマイヤーである。 「おい、ミッターマイヤーから 『着替えを持ってきてもらえるよう手配してくれないか、ケスラー』 と連絡が来たぞ」 「そうですか?」 「おれは生活宅急便ではない、と言ってやったが・・・」 「・・・公私混同ですか?これは」 「そうなるが・・・まあ、たまにはいいか」 「そうですね。たまには。・・・実は、もうホテルの部屋の方に運んでおります」 「早いな」 「閣下の行動パターンには、もう慣れました」 ・・・顔を見合わせて笑うケスラーとビューローであった。 |
BGM:J.S.Bach 「ゴルドベルク変奏曲」第30曲
一日、楽しく過ごせてよかったよかった\(o⌒∇⌒o)/ たまにはゆっくりしなくちゃね。 |