・・・Will You・・・

「ちょっと二人で旅行してきます。心配しないで。1ヶ月くらいで帰るから」

居間のテーブルの上にある置き手紙をエヴァが発見したのは、フェリックスが卒業のための課題を終えた次の日。
驚いて士官学校に問い合わせると、すでに1ヶ月分の欠席届が「ウォルフガング・ミッターマイヤー」の名前で出されているのだという。
「国務尚書閣下の用事かと思いましたので・・・」
と、士官学校の事務長は困惑気味に言う。
「あ、いや、大丈夫だ。そういうことにしておいてくれ」
と、ミッターマイヤーはいつもの笑顔で慰める。

「あなた・・・」
エヴァが心配そうに言う。ミッターマイヤーはエヴァの肩を抱いて言う。
「大丈夫、行き先はわかってる」
「え?」
「だいたい、国務尚書の家族が護衛なしでうろつけるはずはないだろう?二人でハイネセンに行く便に乗ったそうだ。もうハイネセンの駐在弁務官に指示はしてある」

フェリックスとフレイアがロイエンタールのことを聞きまわっているらしいことは、すでにいくつか報告が来ていた。
二人でハイネセンに行き、ロイエンタールの墓参りをしたいと考えているのだ、ということも、ミッターマイヤーはつかんでいた。
なら、好きにさせてあげよう。
フェリックスももう士官学校を卒業するし、自分の判断で行動してもいいはずだ。
ただ、フレイアのことは・・・。

「貞操の危機かな?」
半分冗談のようにミッターマイヤーは言う。
「あなた、フェリックスはそう言うことはしませんわ」
エヴァが抗議するように言う。
「違うよ、エヴァ。フェルの貞操の危機だ、と言ったのさ」


「・・・大丈夫かな?護衛もなし、変装もしないで」
フェリックスが心配そうに言う。
「大丈夫よ。護衛がいないはずがないでしょ。きっとビューロー閣下あたりが手配済みだってば。・・・心配ならサングラスくらいかけておいたら?」
フレイアは、こういうときは度胸が据わっている。
「で、ハイネセンについたらどうするの?」
「一応ホテルは予約しているけど」
「・・・何という名前で?」
「そりゃあ、フェリックス・ミッターマイヤー・・・」
「ばっかじゃない!!何でわざわざ本名使うの?」
フレイアは頭を抱える。
「変装なんかより、そっちの方が大事じゃないの。それで本当に士官学校主席なの?」
「そんなこと、士官学校じゃ教えてくれないよ」
「もう・・・そう言うところ、ウォルフそっくりなんだから。いい、わたしたちは銀河で一番有名な親子なのよ。特にフェル、あなたはいろいろ因縁もあるんだから・・・」
「そう・・・かな?」
「そうよ。今から行くのは敵地なんだからね!少しは警戒しなくっちゃ」
「敵地って・・・もう戦争状態じゃないんだし・・・」
「それでもなにがあるかわかんないじゃない。テロだってもしかしたらあるかもしれないし。
・・・仕方ないわね。ちょっと待ってて」
フレイアは席を立つと、トイレへと向かう。
どうやらトイレから通信を入れるらしい。


「OK!手配すんだわ。若い恋人同士が好んで使いそうな格安のホテルを予約してもらったから大丈夫よ。名前はハインリッヒ兄様の名字を拝借したわ。ランベルツだから、忘れちゃいやよ・・・あ、大丈夫、ツインだから、ベッドは別よ」
フレイアがにこにこ笑って、帰ってきた。
「手配してもらったって、ハイネセンに知り合いでもいるの?」
「そうよ」
「だれ?駐在の武官に、そう言うことしてくれそうな人がいたっけ?」
「今はハイネセン駐在武官はレッケンドルフ閣下でしょ?あの人も昔ロイエンタール元帥の幕僚だったからいろいろ聞けるわね」
「彼に頼んだの?」
「ううん、友だちに頼んだわ」
「へえ・・・そんな友だちがハイネセンにいるんだ」
「うん。名前聞いたら驚くわよ。ダスティ・アッテンボローと言う人なの」
・・・フェリックスは、飲みかけていたコーヒーを吹き出しそうになる。
「何で、そんな人知ってるの!?」
「何年か前にフェザーンにいらしたときに、ウォルフと一緒にお会いしたの。
『10年後には国務尚書の主席秘書官になりますので、よろしくお願いします』ってごあいさつしたら笑っていらしたわ。それから、時々お手紙を出したり、通信で話し合ったり」
「あの、それをウォルフは?」
「もちろん知ってるわよ。わたし、何でもウォルフに話すもの。向こうが全部話してくれているとは思えないけど。まあ、国家機密をいくつも握っている人だから」
「そりゃあ、自分の娘にはそんなこと話さないよ」
「そう?・・・あ、他にもハイネセンには知り合いいるから、心配しないで」
「知り合いって」
「いろいろとね。これでもネットワークはばっちりなの」
ウォルフが、早くからエヴァのかわりにフレイアをエスコートしていろいろなレセプションに出席していた理由が何となくわかるような気がした。


「そうか・・・ホテルを変えたんだな。じゃ、そっちの方の警護も頼む」
『了解しました』
レッケンドルフに一応の指示をして、ミッターマイヤーは苦笑いをする。
あいつら、結局こっちの手のひらの中じゃないか。

「ちゃんと、けじめをつけてこいよ、自分の気持ちに」
ロイエンタールの墓所に行き、ロイエンタールに向き合って。
・・・それは、フェリックスに対して言ったのか、フレイアに対して言ったのか。
それとも、自分自身に言ったのか。

あれから20年たつ。もうそろそろ、いいのかもしれない。

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このあとどうしよう?やっぱりレディースコミックの王道、禁断の恋へヘ(__ヘ)☆\(^^;)